加速器図鑑:リニアック

コラム
ILC の超伝導リニアックの内部構造。左下から加速のための高周波の電波が送り込まれる。 右から左に走るモコモコした部品が超伝導加速空洞。空洞の中に高周波の電波が貯めら れ、ビームが加速される。超伝導加速空洞は液体ヘリウムに浸され、超低温摂氏マイ ナス271 度)に保たれている。これらは低温を保つ為に真空断熱容器に納められており、 その全体はクライオモジュールと呼ばれる(2012 年8 月1 日発行【ILC 通信】65 号参照)。 ©Rey.Hori/KEK

リニアックは線形加速器のこと。リナック・ライナックと呼ぶこともある。特徴はその名のとおり直線状であること。ILCはその全長の約三分の二がリニアックからなる。

加速器にはリング状のものもあり、その代表がシンクロトロンである。 昨年ヒッグスらしき粒子を発見して話題になったLHC、B 中間子とそ の反粒子である反 B 中間子の違いを詳しく調べて小林・益川両博士の 2008 年のノーベル賞受賞に貢献したKEKB も、シンクロトロン。こ れらのリング状加速器でも加速はリニアックから始まる。リニアックで ビームを加速してからリングに送るのだ。高エネルギー物理学実験で使 われるリング加速器は必ずリニアックと組み合わせて使われる。

リング状の加速器では、通常、エネルギーの大きな粒子は外側の軌道 を通り、エネルギーの小さな粒子は内側の軌道を通る。人間が走る時に、 速く走ると曲がりにくく、大きな弧を描くと楽に曲がれるのと同じであ る。リング状の加速器ビームではエネルギーのバラツキが大きいと、軌 道の違いを生み出しビームをうまく回す事が出来ないのである。一方、 リニアックは直線状であるのでエネルギーのバラツキの大きなビームも 容易に通す事が出来る。一般に作られたばかりのビームはエネルギーが 小さく、エネルギーの相対的なバラツキは大きい。その為、粒子源で作 られたビームはまずリニアックで加速される。加速されるとエネルギー が大きくなり、その結果エネルギーの相対的なバラツキは小さくなる。 この状態でリング状加速器に送られる。

ILC でもリニアックとリングは組合わせて使われている。電子はま ず長さ約220m のブースターリニアックで加速され、直径1km 弱のリ ング状加速器(ダンピングリング)に送られる。そこで何周もビーム を周回させながらビーム中の電子の運動の向きを揃えた後、全長11km のリニアックに送られる。電子の反粒子(陽電子)に対しても同様の装 置を作り、両者が対向する形で設置され、電子と陽電子を衝突させる。

ILC のリニアックは大変長いが、短いリニアックが活躍している場が ある。それはガンの放射線治療だ。放射線治療にはいろいろなやり方が あるが、リニアックを使うものは装置が比較的小型のため良く普及しており、 現在全国で1000 台程度の治療装置がある。この心臓部をなすのが長さ 1mくらいの小型の電子リニアックである。山椒は小粒でもピリリと辛い。