E-XFEL@DESY出張報告記  山本 康史 (KEK 研究機関講師)

コラム
DESYの加速器制御室内にあるE-XFEL入射部の運転状況を表すモニター

現在、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)にて建設が大詰めを迎えているヨーロッパ合同X線自由電子レーザー(E-XFEL)は、国際リニアコライダー(ILC)の約1/20スケールの超伝導線形加速器(800台の超伝導空洞および100台のクライオモジュールが用いられる)である。E-XFELではILCと同様の超伝導加速器技術が用いられており(たとえば、空洞単体性能試験ではILCと同様に加速勾配が35 MV/m以上、またクライオモジュール試験では31 MV/mまでの性能確認が行われている)、この結果次第ではILCの建設状況にも少なからず影響を及ぼしうる。 筆者は超伝導空洞およびクライオモジュールの大量生産時の状況を学ぶために、2014年6月から2015年2月まで現地に家族と共に滞在し、様々な経験を積んできた。赴任した当時はクライオモジュールの試験が始まったところであったが、予想外のトラブルが頻発しており、その影響で試験予定がかなり遅れてしまい、現場の雰囲気は結構ピリピリしていた。帰国直前にはトンネルに搬入した最初の4台のクライオモジュールの連結作業が始まったところであった。

この7月15日にDESYを一年半ぶりに訪問した。前日にポーランドの原子核物理学研究所から派遣されていた技術者集団の契約期限の満了を祝って打ち上げパーティーが開かれていたとのことで、超伝導空洞およびクライオモジュールの試験を行っている加速器モジュール試験施設には作業員がほとんどいなかった。建屋の壁に設置されている空洞保管用棚には空洞が一台も無く、またクライオモジュール試験用ピットの前にあるクライオモジュール保管用エリアも広々としており、大量生産の終わりを感じさせるものが随所に見られた。一方、E-XFELの加速器トンネルでは入射部のコミッショニングが昨年から始まっており、制御室にてその様子を見ることができた。すでに運転時のスペックはほぼクリアしており、順調な立ち上がりであったといえる。トンネル入域前に酸素ボンベの使用法などの安全講習を受け、自転車に乗って上流部から最下流にある実験ホールまでの3.4kmを見学することになった。90台以上ものクライオモジュールが並んでいるトンネル内の光景は壮観そのものであり、ILC完成時のトンネル内の光景をイメージするのに十分なものであった。クライオモジュールの連結作業(12台のクライオモジュールが連結され、一つのクライオストリングを形成する)は最後のセクションまで到達しており、いよいよ大詰めといった段階であった。約17.5 GeVまで加速したビームをFEL発振させるためのアンジュレータも設置されており、光(X線)の経路も実験ホールまで導かれていた。実験ホール用の立派な建屋も完成しており、地上部はオフィスに、地下は実験準備室と実験ホールになっていた。実験ホール内はビームラインごとに建屋が出来つつあり、ユーザー側の準備も着々と進んでいるといった感じであった。

最後にE-XFELの今後の予定であるが、9月末までにはトンネルを閉鎖し、クライオモジュールの冷却が始まることになっている。冷却途中にリークなどのトラブルが発生しなければ、その後は加速器モジュール試験施設で行われていたことと同様にクライオモジュールの性能を再確認し、年内にはビーム試運転が始まることになっている。今年末か来年早々には良いニュースが届くことを期待して筆を擱く。  (2016年8月29日)

写真左上はE-XFELメイントンネル内の様子、右上は最下流にある実験ホールの様子、左下はAMTFの様子。