トンネルの外側を考える

ILC ニュースライン

※この記事は2021年11月26日に発行されたILC NewsLineの翻訳記事です。

ILC国際会議(ILCX)で多くのILC物理の新しいアイディアが生まれました

国際リニアコライダー(ILC)がヒッグス粒子の研究のための一芸に秀でただけの施設であると思っているならば、考え直してください。実は、自動運転車の研究、アクシオンやダークフォトンによる暗黒物質の研究、トンネル内のX線、テトラクォークやペンタクォークを作る光子ビーム、エネルギー回収..など、これらのアイデアはすべて、ILC国際推進チーム(IDT)の物理・測定器グループの村山斉座長の呼びかけで昨年10月に開催されたILC国際会議(ILCX 2021)で発表・議論されたものなのです。

「単なるヒッグスファクトリーではない 」ILCXでは、将来のILCのさまざまな可能性を示しました。「まだILCはできていないのだから、いろいろなことを考えないと時間と創造力がもったいない」と村山座長は云います。「このプロジェクトの近い将来と長期的な可能性について、新しいアイデアを出した方がいい」。「ILC研究所で可能なすべての実験の機会について」との標語のもとに、ILCコミュニティの内外から実験、理論、加速器物理学者が集まったこのオンライン会議には、約600人が登録しました。

その一人が、ドイツのハイデルベルク大学で理論物理学を教えるスザンヌ・ウェストホフ教授です。彼女は、比較的長い寿命で、ほとんど相互作用がなく、暗黒物質のような謎の現象について教えてくれる粒子を探す実験のアイデアを発表しました(資料こちら)。「新しい長寿命粒子が存在する可能性は非常に高いと思います」と彼女は云います。「特に、衝突型加速器からのデータと宇宙論的な考えを組み合わせた時、私たちの宇宙について多くのことを教えます。そのような粒子の候補の一つは、暗黒物質のメッセンジャー粒子となりうるダークフォトンかもしれません。

元々は日本のKEKにあるBelle IIに添える実験として提案されましたが、彼女の実験はILCやFCC-eeといった他のコライダーでも、もしかしたら大きな可能性を持って機能するかもしれないと彼女は言います。彼女と学生たちは現在、そのような検出器に最適な場所と技術について研究しています。新しいトンネルの地下に検出器を設置するか、地上に検出器を設置するか、いくつかのシナリオがあります。また、検出器には、スイミングプール位の大きさで比較的安価な市販のシリコン検出器技術を使用します。また、ILCが提案する検出器自体が新しい長寿命粒子を発見する可能性がどの程度あるのかも研究しています。

ILCXで発表された多くの実験アイデアの中で、ビームダンプは大きな役割を果たしました。普段はその名の通り、ビームを衝突させた後、捨てられ忘れる場所です。これを標的にぶつけて、暗黒物質の候補でもあるアクシオンのような軽粒子が発生するかどうかを見てはどうでしょう。あるいは、自動運転車(あるいは少なくともその制御装置)を捨てられたビームの通り道に置いて、自動運転車が走行中に影響を受ける可能性のある電離放射線による誤作動を研究し、最終的に解決するのは?あるいは、ビームダンプをミューオン断層映像に使い、タンクローリー車にカスタム化してX線撮影してはどうでしょう?もしくは、ビームを廃棄せず、衝突後に減速し、ビームの有する膨大な電力を取り出し、研究キャンパスや近隣の町の電力に利用するのはどうでしょう?

また、このビームを取り出すことで、制御された実験室でブラックホールからのホーキング放射をシミュレートすることも可能です。ブラックホールの地平線付近に強い重力場を作る代わりに、高エネルギー電子と強力なレーザーを衝突させることで強い電場を作ることができるのです。この電場が「シュウィンガー限界」を超えると、ホーキング放射のような電子の位置対の雪崩が発生すると予想されます。あるいは、陽電子源を生成するアンジュレータからの光子を使い、”壁を突き破って輝く “アクシオンを探します。 あるいは、別の抽出ビームで「テトラクォーク」「ペンタクォーク」の状態を作ることも可能です。

村山座長は、「この会議から多くの創造的なアイデアが生まれ、ILCがさまざまな方向で可能性を秘めていることがわかり、とても嬉しく思っています」と締めくくります。「しかし、私にとっては、コミュニティを広げ、新しい人々とそのアイデアに出会えたことが一番の収穫です。」

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