ノーベル賞でたどる素粒子の発見物語:6 Zボソン、Wボソンの発見

コラム

1984年、米ハーバード大学の教授で欧州共同原子核研究機関(CERN)で実験を行っていたカルロ・ルビア博士とCERNの加速器研究者、シモン・ファン・デル・メール博士は、弱い力を伝える素粒子であるZボソンとWボソンを発見したプロジェクトへの貢献でノーベル物理学賞を受賞しました。

 

ZボソンとWボソンとい素粒子の考え方は、「電磁気力」と、原子核が他の原子核に変化(崩壊)する時に働く「弱い力」という二つの力が本来は同じ力であるのだが、違って見えるのは、電磁気力を伝える素粒子「光子」の質量がゼロであるのに対し、弱い力を伝える素粒子は重いからだ、という考えから来ています。このように考えることで、光子が働く電磁気力はどこまでも光速で力が伝わるのに対して、弱い力の素粒子は質量を持つために力の到達距離が極めて短くなることが理解できます。

 

弱い力により中性子が陽子に変化することを考えると、弱い力を伝える素粒子には電荷を持つものがあり、反応の前と後で電荷の量を変化させます。これがWボソンで、電子の持つ電荷量を−1とすると、Wボソンには+1と−1の電荷があると考えられます。

 

一方、電磁気力と弱い力を元々は同じものとする上記の考えによれば、弱い力を伝える素粒子には、光子のように電荷を持たない素粒子がいて、反応の前後で電荷が変化しない反応が存在するはずでした。

 

実際1973年に、CERNや米国のシカゴ近郊にあるフェルミ国立加速器研究所で弱い力が働き、しかも前後で電荷の量が変わらない素粒子反応が発見されました。この電荷を持たない弱い力を伝える素粒子と考えられたのがZボソンです。

 

Z、Wボソンともに、100ギガ電子ボルト程度の質量を持つことが予測されましたが、当時そのような重い素粒子を作り出す加速器はありませんでした。

 

CERNは、陽子と反陽子を加速・貯蔵して正面衝突させることで、Z、Wボソンを直接作って観測する計画を立てました。また、ファン・デル・メール博士が「確率冷却」と呼ばれる、高周波の電場により反陽子の位置と運動量のばらつきを減らす仕組みを開発し、高密度の反陽子を貯蔵リングに集めることに成功しました。

 

1983年、ルビア博士率いる100名を超える実験チームが、実際にWボソン、Zボソンを作り出し、その質量が電磁気力と弱い力を同じと考える「電弱理論」の予測と一致することを確認し、理論の考えが正しいことを証明したのです。