2016年9月25日から30日までの日程で、米国のミシガン州、East LansingでLINAC2016という会議が開催され、参加する機会を得た。LINACという会議は、隔年で開催されている線形加速器の研究者の会合である。現在のトレンドはなんといっても超伝導加速器である。これはTESLA/ILCの長年の開発により、超伝導加速器の技術、性能が大幅に向上したため、実用化が進んでいることを示している。欧州で建設中のEuro-XFEL(X-ray Free Electron Laser、X線自由電子レーザー)はTESLA直系の弟子のような存在だ。また、SLACで稼働中のLCLSは、伝統あるS-band 2-mile LinacをベースとしたX線領域のFELである。その二期計画であるLCLS2は、超伝導加速器をベースとし、連続的に強力なコヒーレントX線を生成するCW(Continuous Wave) XFELとすることが計画され、研究開発が進展している。さらには、電子加速器だけでなく、ESS(中性子源、Sweden), FRIB(不安定イオン加速器、Michigan State U)など、多くのハドロン加速器にも超伝導加速器が採用されており、プロジェクト数で言えば、ハドロン加速器への利用が優勢にも見える。
会場となったミシガン州立大学構内にあるケロッグホテル。昼食は道路をはさんだ大学食堂で食べる。パラレルセッションを設定せず、期間中は全ての参加者があたかも家族のようにともに過ごし、議論を深めるのが、LINAC conference の精神である。
そのような超伝導加速器の隆盛をみるにつけ、気になるのは、1980年代にTRISTAN(電子陽電子衝突型加速器)において、超伝導加速器の最初の実用化に成功しておきながら、まだ超伝導加速器による本格的プロジェクトが走らない日本である。米国フェルミ研究所で発見された、窒素添加による高効率、高勾配の超伝導空洞開発についても、米国の独走を許している。
こういう会合では、知り合いにたくさん会うのだが、揃いもそろって「いつ日本はリニアコライダーを始めるのか」と質問される。それに対して、学術会議答申、文部科学省の作業部会等で前向きな回答が出て、段階的に進展している、と答えている。プロジェクトの意義が明確で、世界からも期待され、実行する能力もある。これだけ条件が揃っている魅力的なプロジェクトをなぜ始めないのかと、靴下掻痒の思いがつのる。人類の進歩に貢献する歴史的事業に投資する、それが文明国の役割だと思うのである。