ILC物理測定器研究会年会開催報告(ダニエル・ジーンズ KEK 准教授/川越清以 九州大学 教授)

コラム

ILC物理測定器研究会の年会が3月19日〜20日にKEK(つくばキャンパス)で開催されました。年会の主な目的は、今年度の進捗状況をまとめ、ILCと関連するプロジェクトの状況を概観し、来年度の計画を立てることにあります。海外からの3名を含め、合計35人が年会に出席しました。

 

初日は、理論的観点から見た素粒子物理の現状、ILC加速器設計の進捗状況、ヨーロッパで進められているILC計画のための活動、そしてLHC実験による最新の物理結果についての招待講演がありました。これらの講演では、「LHCの最新結果を考慮すると、ヒッグス粒子と電弱セクターを高精度で探査する250GeVの電子陽電子コライダーが重要である」、「ILC加速器の設計は技術的に準備ができて成熟しており、最近はコスト削減のための研究が進んでいる」、「日本でのILCの実現に重要な貢献をなしうる大きな国際社会が存在する」ことなどが強調されました。また、ILCに関連する研究を欧州で継続するには、2018年12月に始まる、素粒子物理の欧州戦略を更新するプロセスに、日本政府から明確なメッセージが示される必要があることも強調されました。また、大学院生や若手研究者が、 ヒッグス粒子、電弱相互作用、トップクォークの物理に関する研究報告を精密検証に重点を置いて行いました。

 

年会2日目は、主に測定器開発についての発表と議論が行われました。まず、SuperKEKBでの運転が始まるBelle II測定器と、LHCでのATLAS実験およびCMS実験の測定器アップグレードについての報告がありました。これらのプロジェクトとILCのための測定器開発との間に、密接な相乗効果があるのは明らかです。また、ILC測定器の構成要素であるバーテクス測定器、TPC(Time Projection Chamber)、電磁カロリメータ、ハドロンカロリメータの開発状況についても、報告がありました。今年度、ILC実験の測定器開発には、とても限られた研究資源(予算、マンパワー)しかありませんでしたが、それにもかかわらず、全ての分野において進捗がみられています。

 

今年度の年会はILC計画にとって重要な時期に行われました。文部科学省の有識者会議によるILC計画の検討は近々結論を出す予定であり、同時に国内外で深い政治的議論が進められています。日本政府は、国際的なプロジェクトとしてILC計画をホストすることへの関心を表明するかどうか、近い将来決断するでしょう。日本と海外の研究者から支持を得ているILC研究者は、この決断が肯定的なものであることを願っています。それによって、このユニークな計画の実現に着手し、私たち自身が存在する宇宙の謎を深く研究できるようになるからです。