*これはILC国際推進チーム(IDT)のプレスリリースを和訳したものです
次期最優先コライダーは電子・陽電子ヒッグス ファクトリーであることは、世界の研究者のコンセンサスとなっており、日本におけるILCがタイムリーに建設されることは世界的に強い支持を得ています。
このたび、IDTは「ILC準備研究所(プレラボ)提案書」を公開しました。これは、日本における国際リニアコライダー実現に向けて、さらなる一歩を踏み出したことになります。この提案書は、ILC国際推進チーム(IDT)が取りまとめたもので、国際将来加速器委員会(ICFA)によって承認されています。
IDT議長(スイス連邦工科大学ローザンヌ校 名誉教授)の中田達也氏は「提案書の完成により、IDTは主要なマイルストーンを達成しました。この提案書は、プレラボの組織的枠組み、実装モデル、および作業計画の概要を示すものです」と語ります。
ILCの建設を開始するために必要となる全ての技術開発と工学設計は、準備期間中に完成される必要があります。時期を同じくして、ILCに関心のある関係国の政府当局間において、ILC施設の建設と運用の費用と責任の分担、およびILC研究所の組織構造と運営について合意を結ぶことも期待されています。
プレラボは、ILC建設開始に向け、必要となる技術開発とエンジニアリングを完了させるとともに、必要となる情報を提供して政府間交渉をサポートすることを目的とする組織です。IDTは、準備期間としては、2022年頃の開始後、約4年間を想定しています。
この提案書は、ILCに関心のある各国の研究所や政府関係者が、ILCへの参加を検討するための情報を提供することを目的につくられたものです。
詳細については、プレラボ設立のために、実際にこの提案書に記載した事項を実施する段階で実情に応じて更新する予定です。実施については、日本及び世界各地の政府関係者、プレラボの共同事業の基盤となるパートナー研究所、およびILCプロジェクトを推進する世界の物理コミュニティからのインプットを反映させて行われます。
「これからIDT の活動は、この提案書に記載した方向性に沿って、プレラボを設立するための各ステップを実現する、というフェーズへと入ります。今後もプレラボの早期実現に向けて全力で取り組んでまいります。エキサイティングな時間は我々の目の前です」(中田氏)。
用語解説
IDT:ILC国際推進チーム(ILC-IDT 議長:中田達也スイス連邦工科大学ローザンヌ校名誉教授)
ILCプロジェクトの第一段階として、日本におけるILC準備研究所(プレラボ)を設立する準備作業を行うことを任務として2020年8月に国際将来加速器委員会(ICFA)によって設立された組織
ICFA:国際将来加速器委員会(ICFA:International Committee for Future Accelerators)
高エネルギー物理研究に用いる加速器の建設と運用における国際協力の促進を目的に設立された組織。 高エネルギー物理研究に関与する世界各地の専門家から構成されており、現在の委員は16名。
国際リニアコライダー:国際リニアコライダー(International Linear Collider: ILC)は、世界中の大学や研究所の科学者やエンジニア参加する国際的な取り組みです。対面する2つの線形加速器で構成されているILCは、電子とその反粒子である陽電子を加速して衝突させます。 絶対零度に近い温度で運用される超伝導加速器空洞は、加速器の中心にある検出器の中で衝突するまで、加速して粒子にエネルギーを与えます。 本格運用時には、電子と陽電子のビームが1秒間に約7,000回、250ギガ電子ボルト(GeV)の重心系衝突エネルギーで衝突し、大量の新たな粒子が生成されます。 それらの粒子はILCの測定器で捉えられ記録されます。 それぞれのビームには、人間の髪の毛よりもはるかに小さい領域に200億の電子または陽電子が集中しています。 このことにより、粒子の衝突頻度は非常に高くなります。この高い「ルミノシティ」と、衝突する粒子から起こる非常に正確な相互作用により、ILCは、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)で最近発見された、ヒッグス粒子などの性質を詳細に測定するための豊富なデータを取得することができます。また、暗黒物質のような物理学の新しい領域にも光を当てることができます。