ILCをつくる人:第2回 道前 武 氏

ILCをつくる人

国際リニアコライダー(ILC)計画は、国際協力で進められている次世代加速器計画です。ILCの実現に向けて活動している人にスポットをあてるインタビューシリーズ「ILCをつくる人」。

第二回は、ILCの超伝導空洞の製作を行っているKEK 加速器研究施設 応用超伝導加速器センター(CASA)の 道前武助教です。

道前氏は、ILCが完成した時にリーダーとなる世代の研究者の一人。科学者になったきっかけや、ILCへの思いをお聞きしました。

科学に興味を持ったきっかけはなんですか?

道前「中学の時に、理科の授業で天体望遠鏡を使う機会があって、それで木星らしきものが見られたのです。そこから星や天体に興味を持ち始めました。当時は『あの星に人類ではじめて到達してやる!』『名をはせてやろう!』と野望を持っていました(笑)

それと高校生の時、とあるゲームをやって、それが大正時代くらいが舞台のゲームで、そこから『過去に行ってみたい!』『タイムマシンが作りたい!』と考えるようになって、物理に興味を持つようになりました」

そこから大学では物理を?

道前「大学に入学して、3年生の時に素粒子の道に進みました。タイムマシンというと理論かなという気がしたのですが、あまり出来の良い学生ではなかったので、理論の先生に相談したら『君は実験に行ったほうがいいよ』と言われ、大学4年生の時に素粒子実験の研究室に進みました。

研究室では検出器の開発をしていたのですが、同じ研究室にATLAS実験をやっている人たちもいました。ATLAS実験では余剰次元というキーワードが出てきて、タイムマシンにつながりそうな『次元』という言葉に単純につられて、大学院でATLAS実験をやろう!と。

そして大学院に進んでATLAS実験をやっていました。ATLASは、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の検出器で、衝突から何が生まれるかを観察する実験です。LHCでは、ものすごい頻度で、ものすごい量のデータが出てくるのですが、その取捨選択をするトリガーシステムの開発をやっていました。

余剰次元というのは、この世の中には4次元以上の次元が隠れているのではないかという理論です。その違う次元と次元を行き来できる粒子があるのではないかと言われていて、そうした新粒子を探索する実験もしていました。残念ながら、私が博士課程の時には、余剰次元に関連する粒子を見つけることはできなかったのですが、LHCではヒッグス粒子が発見されました!現地のCERNで記者会見を聞いたり、歴史的な瞬間に立ち会うことができたのはラッキーでした。ヒッグス発見の論文には、僕の名前も載っているんですよ」

ではKEKに来られてはじめてILCに関係する研究をするように?

道前「実は大学院が終わってから、国立がん研究センターというところに行きました。ATLASのような基礎実験をやっていると、もっと人の役に立つことをやりたいなと思うようになって、一般企業への就職なども考えたのですが、最終的に国立がん研究センターで量子線医療の開発分野に1年半くらい携わっていました。

でも医療機器というのは、実際に機械をいじるのはメーカーの人で、それを横で見ていると非常にもどかしいんですね。やらせて!と言いたくなってしまう(笑)ちょうどその時にKEK機械工学センターのポスドクの募集が出ていて、それがILCに使う超伝導空洞の開発でした。話を聞いてみたら、ほとんど自分でやらなければいけないところで、渡りに船という感じでこちらに来ました」

現在の研究はどのようなことを?

道前「機械工学センターでポスドクをやってから、CASA(KEK 加速器研究施設 応用超伝導加速器センター)の助教に着任しました。超伝導空洞の製造技術の開発をしています」

今の研究をやっていてよかったなと感じるときはどういう時ですか?

道前「もの作りが好きなので、超伝導空洞の様な大きいものを自分の手で作り上げたときなどは『ああ、できた!』と達成感があります」

逆に、大変だなと思うのはどういう時ですか?

道前「期日までになんとかつくらなきゃいけない時ですかね。人も足りないので、そういう意味ではけっこう大変なときもありますね」

ILCができたらどんな研究をしたいですか?また、どんな成果を期待しますか?

道前「空洞製造に携わっていて、今は1台作るのでさえヒーヒー言っているのに、それが8000台作るとなると、その過程でどんな問題が発生するか、ものづくりの観点から、できあがるまでの工程に興味があります」

 ILCにはどんな価値があると思いますか?

道前「一つは次の世代の物理の探索、開拓者として、次の物理につながる何かを作り出してくれる価値がある、というか期待をしています。また、経済や、人の流れなど、周辺地域を活性化できるというのは期待しているし、そうした価値はあってもいいなと思います。そうした価値が生まれることで、次の世代にさらに新しい実験をやろうというときに、招致しやすくなるかなとも期待しています。

また、次の世代の研究者に渡す“たすき”の価値もあると思います。今の時代、純粋な高エネルギーの衝突実験は、世界を見ても数が少なくなってきています。だんだん大型実験が少なくなっているというのを、私としては危惧しています。ILCができて、次の世代に実験技術やノウハウが受け継がれていくことを期待しています。そうした価値があると思います」