※この記事は2021年4月19日に発行されたILC NewsLineの翻訳記事です。
1,000万ユーロ。これは、欧州委員会のHorizon 2020プログラムから、AIDAinnovaプロジェクト(Advancement and Innovation for Detectors at Accelerators)に参加する機関に対して、特別に「Innovation Pilots」という形で付与される金額です。素粒子物理学では、高度に専門的な検出装置が必要とされ、その多くが産業的な規模であることから、このプロジェクトでは、産業界と学術機関との連携が重視されています。
AIDAinnovaは、新しい測定器技術の開発のために研究所のインフラ設備強化をもたらした前身のプロジェクトであるAIDAおよびAIDA-2020の成功を受けて設立されました。CERNを中心としたこの後継プロジェクトには、4年間で1,000万ユーロの資金が配分され、15カ国の9つの企業、3つの研究・技術機関、34の学術機関が参加しています。AIDAInnovaのコーディネーターであり、前プロジェクトAIDA-2020の科学コーディネーターでもあるフェリックス・セフコウ氏(ドイツ・DESY)は、「企業が測定器開発に直接関与することは、研究と産業の両方にとって、より早いターンアラウンドとより多くのイノベーションを目指すための斬新な試みです」と述べています。
AIDAinnovaでは、測定器技術が持つ科学的な可能性を引き出すために、テストビームなどの研究インフラ設備を最新鋭のものに強化します。AIDAinnovaでは、これまでの明確に定義された研究開発パッケージに加えて、「グリーンフィールド」プロジェクトに対しても門戸を開きます。そのため、革新的で「軸外」のプロジェクトに資金を提供するための研究募集が行われます。
産業界が参加する形態はふたつあります。AIDAInnovaのメンバーである研究機関のアソシエイトとして参加する企業と、コラボレーションの正式メンバーとして参加する企業があります。後者は9社あり、欧州委員会(EC)からの研究費を用いて、検出器の部品の設計及び試験を行ったり、専任のスタッフを雇用したりします。これはこれまでとは異なる新しいタイプのコラボレーションで、制約は多くなるものの、メリットは大きくなります。
フランスCNRS/IN2P3のAIDAInnovaコーディネーターであるジョバンニ・カルデリーニ氏は、「AIDAInnovaに参加している9つの企業は、さまざまな恩恵を受けるでしょう。何よりもまず企業の認知度が高くなります。」と述べています。プロジェクトのフルメンバーであることは、科学コミュニティとの強い結びつきを示すと同時に、重い責任も伴います。「CERN、IN2P3、DESYなどの主要な研究機関とのコラボレーションは、将来の取引における品質を確保することになります」とカルデリーニ氏は云います。「彼らは将来、他の科学実験の特権的パートナーとなり、新しい分野や新しい市場を開拓することになるでしょう。」そして、これは相互にメリットがあります。「コラボレーションでは、より深いレベルでの交流が行われます。共同研究では、より深いレベルでの交流があり、科学者が企業内において重要な役割を果たすこともあります。企業の詳細を知ることは、私たちにとって非常に価値のあることであり、交流は誠実で透明性のあるものです」とカルデリーニ氏は締めくくります。
AIDAInnovaでは、LHCの高輝度フェーズの半ばに行う測定器の二回目のアップグレード(2030年代頃に準備が整うと予測されている)や、CLIC、FCC、そしてもちろんILC測定器まで、幅広い実験をカバーします。ワークパッケージの大半は、これらのプロジェクトのいずれかに貢献します。ILCでは、機械構造や電子機器を可能な限り薄く、軽量に設計し、入射粒子がほとんど相互作用しないようにすることがひとつの課題となります。もうひとつの重要な研究開発分野はカロリメータで、粒子シャワーをより正確に再構築するために、検出器の細粒度と時間分解能を向上させることが求められます。モノリシック型センサーは、センサーとフロントエンドの電子機器を共通のシリコン構造で実現するもので、ILCにとってもう一つの有望な技術です。カルデリーニ氏は、「この分野ではここ数年で大きな進歩を遂げており、これらの技術がILCの測定器の構築に大きな役割を果たすと確信しています」と語っています。
このような技術的な挑戦には、産業界との協力が不可欠です。なぜならば、現時点における最先端技術を求めることと、科学コミュニティにとって適正なコストを求める間での妥協点を見出すことが本当に難しいからです。AIDAInnovaのキックオフミーティングは、2021年4月13日から16日まで、学術界から産業界まですべてのパートナーを集めて開催されます。
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