※この記事は、2025年1月30日に発行されたILC Newslineの翻訳記事です。
若手研究者(ECR)のコミュニティは、2020年の「素粒子物理学将来欧州戦略(欧州戦略:以下「欧州戦略」)」アップデート以降、キャリア展望や多様性に関する幅広い調査を行うなど、活発な活動を展開しています。2024年9月には、欧州将来加速器委員会(ECFA)のECRパネルが、2026年に予定されている欧州戦略のアップデートに向けた若手研究者の提言準備を開始し、欧州のすべての若手研究者に貢献を呼びかけました。さらに、2024年11月14日に欧州合同原子核研究機構(CERN)で開催されたワークショップを機に、ECR白書の作成が進められています。この報告書は、コミュニティ内で行われた重要な調査結果をもとに作成されています。また、2024年に東京で開催されたLCWS24では、リニアコライダーコミュニティ内でECRセッションが開かれ、若手研究者がリニアコライダーの未来について展望を共有する機会が設けられました。
この流れを受け、2025年1月8日から10日にCERNで開催されたLCビジョンコミュニティイベントは、ECRセッションからスタートしました。本セッションの目的は、将来のリニアコライダーに関するさまざまな側面について、コミュニティの若手代表が意見を交わす場を提供することでした。まず、参加した若手研究者によるライブアンケートとそれに続く議論が行われ、その後の第2部ではシニア研究者も加わり、議論の中心となった主要なポイントについて意見を交わしました。
ライブアンケートでは、LCビジョンプロジェクトの強みに関する若手研究者コミュニティの見解が明らかになりました。物理学のプログラムに対する手厚いサポートが大きな魅力とされ、さらにリニアコライダーは先進的な技術設計であるため、他の提案と比較してより時宜にかなった選択肢であると考えられています。プロジェクトのスケジュールや技術的な実現可能性に加え、将来の課題や優先事項の変化に柔軟に対応できる点は、若手研究者のニーズを反映していると評価されています。
一方で、さらなる議論が必要な点も指摘されました。セッション内で挙げられた重要な課題の一つは、リニアコライダーの提案書がやや保守的であるという点です。プロジェクトはより高い目標を掲げるべきであり、低予算で確実に実現可能な選択肢だけでなく、長期的なビジョンや展望も強調すべきだという意見がありました。また、将来の加速器提案が競争力を持つためには、コミュニティ全体、特に若手研究者にとって魅力的である必要があります。リニアコライダーの将来のアップグレードとして、低温銅(cool copper)技術やエネルギー回収、プラズマ航跡場加速といった新技術が考えられており、遠い将来に向けた可能性と、仮に短期的な資金調達が難航したとしても競争力を維持できる柔軟性を兼ね備えている点が強調されました。
より多くの若手研究者がリニアコライダー研究に参加し、コミュニティ全体の関与と協力を促進するための取り組みが求められています。リニアコライダーの選択肢を探るためのリソースを提供することで、将来の加速器研究の資金提供の方向性を多様化することは、CERNにとっても有益なものとなるでしょう。また、グローバルな物理学界におけるリニアコライダーの位置付けを明確にし、さらに発展させていくことが極めて重要であると考えられています。コミュニティは、新たなヒッグスファクトリーの実現に向け、明確な戦略を策定する必要があります。
本セッションでは、LCビジョンコミュニティ自体の団結の必要性も指摘されました。現在、複数のリニアコライダーに関する提案が存在するため、それぞれの取り組みを統合し、一貫した戦略を示すことが重要です。共通の目標や優先事項を明確にすることで、リニアコライダーへの支持を高めるだけでなく、意思決定者や素粒子物理学界全体に対して明確で一貫性のあるメッセージを発信でき、成功の可能性を高めることにつながるでしょう。
以上の考察は、LCビジョンのさらなる発展と、すでに進められている計画の認知向上における若手研究者の貢献を示すものです。欧州戦略での決定は、次世代の科学者たちにとっての機会と方向性を形作る重要な要素となるでしょう。
執筆者:Jan Klamka、Krzysztof Mękała、Emanuela Musumeci、Leonhard Reichenbach
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