for pulic for researcher English
news@kek
home news event library kids scientist site map search
>ホーム >ニュース >News@KEK >この記事
last update:06/03/16  

   image 光と光の衝突で新粒子    2006.3.16
 
        〜 約30年間見つかっていなかったチャーモニウムを発見 〜
 
 
  光と光がぶつかっても何も起こりませんが、光のエネルギーをずっと高くして光の粒子(光子)同士をぶつけると物質が創成されることは以前ご紹介しました(2003.5.222005.11.10)。今回、高エネルギー加速器研究機構にあるKEKB加速器を用いたBelle実験で、10億電子ボルト以上の高いエネルギーの2つの光子の衝突から新しい粒子が発見されたことについてご紹介しましょう。
 
魅惑のクォークのペア

現代の物理学では物質を構成する基本粒子の一つ、クォークには6種類があると考えられています。そのうち3番目に重いチャームクォークは1974年にブルックヘブン研究所(BNL)とスタンフォード線型加速器研究所(SLAC)の二つの実験でほぼ同時に見つけられました。この時発見された新粒子はジェイ・プサイ(J/ψ)粒子と名付けられ、チャームクォークと反チャームクォークが強い力(量子色力学)でお互いを引きつけあっていると考えられています。このようにチャームクォークと反チャームクォークがペアになっている粒子のことをチャーモニウムと呼びます。

太陽の光をプリズムで七色の光に分けて詳しく調べると、ところどころに暗い線がみられることはご存知でしょうか。この線は1813年ごろにこれを詳しく調べたドイツのガラス職人の名をとって「フラウンホーファー線」と呼ばれています。太陽の光の中になぜこのような暗い線が見えるかの謎の解明は20世紀になって量子力学が発展したことによって明らかになりました。太陽の大気の中に含まれる様々な原子で、原子核の周りを回っている電子の軌道がある限られたエネルギーの値しか持つことができないため、ちょうどそのエネルギーを持つ波長(色)の光だけを効率よく吸収することがわかったのです。

電子の軌道のエネルギーの値は量子電磁力学で精密に計算することができますが、チャームクォークと反チャームクォークが量子色力学で結びつけられているチャーモニウムでも同じように飛び飛びのエネルギー(質量)の値を持つことが予想され、J/ψ粒子の仲間のチャーモニウムが当時の実験で約10種類発見されています(図1)。

光と光の反応

1970年代半ばに精力的に探索されたチャーモニウムもその後は実験による探索が下火になりました。当時の加速器で可能だった電子と陽電子の衝突などによる実験では、探索の精度に限界があったためです。

光子と光子をぶつける実験では、作られる中間子の性質に限りがあり、また、他の反応ではできづらい粒子ができることから、精度よく新粒子を見つけられるのではないかとの予想はありましたが、これまで光子光子衝突で新しい種類のチャーモニウムが見つらけた例はありませんでした。

以前の記事でもご紹介したように、電子と陽電子を衝突させる実験では、ときどき電子と陽電子から光子が放出され、その光子同士が衝突する場合があります。しかし、チャーモニウムをつくることができるほどの高いエネルギーの光子が放射される確率はかなり低いので、このような手段で新しい粒子の発見するには、世界最高のルミノシティ(衝突頻度の「明るさ」)記録を持つKEKB加速器によって初めて可能となりました。Belle実験で蓄積された光子と光子の衝突反応のデータ量は、過去の実験の10倍以上になります。

新粒子Z(3930)

今回の新粒子は、暫定的に「Z(3930)」と名付けられました(図2)このデータの中から新粒子が見つかりました。今回、見つかった新しい粒子は、新しい種類の「チャーモニウム」だと考えられています。味気ない名前ですが、この3930はその質量に対応するエネルギーがおよそ3930MeVであることを表しています。そして、やはりBelle実験で非常に近い質量のところにすでに見つけられている X(3940)、Y(3940)と区別するために、"Z"の文字が採用されました。Z(3930)は、つくられたすぐ後にD中間子と反D中間子のペアに壊れたところを見つけられたのですが(図3)、X(3940)とY(3940)が、D中間子と反D中間子のペアに壊れる確率は小さいようなので(今のところ見つかっていません)、Z(3930)は、X(3940)やY(3940)とは別の種類の粒子であると考えられています。

十数種類あるチャーモニウムの性質を詳しく調べて互いに比較すると、量子色力学(QCD)についての研究を進展させることができます。これまでの研究によって、まだ見つかっていないチャーモニウムの存在だけでなく、質量やその他の性質の予想もできるようにもなっています。チャームクォークやその他のクォークが、複数の種類の中間子を構成し、特徴的なパターンをつくることはかつてのNews@KEK(2005.3.32003.9.11)でご紹介しました。

Z(3930)が壊れて出てきたD中間子の角度の分布の測定結果などによって、この粒子はすでに見つかっているチャーモニウムχc2(カイc2)中間子が動径方向に励起した状態(すでにでχ'c2(カイc2プライム)中間子という名前が与えられている)であると見られています。図4の表に見るように、J/ψ中間子とηc中間子には、そのそれぞれに"'"(プライム)がついた励起状態がすでに見つかっていますが、χ'c2中間子は、その基底状態であるχc2中間子が見つかって以来、およそ30年間、存在が予想されていたにもかかわらず、今日まで見いだされていなかったものです。その質量(図5)は理論から予想されていた値とおおむね合っていました。

それまで予想もされていなかったような粒子を発見して、その正体を見極めることも重要ですが、長年、その存在が予想されていた粒子の存在を確認してその性質を測定し、既存の理論の予想が正しかったどうかを確かめることも、自然現象の理解の基盤を固める上で重要です。KEKB/Belle実験での高いルミノシティを生かした研究によって、強い力やハドロン(中間子や重粒子など)についての研究が今後もますます進展することが期待できます。
 



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEKBのwebページ
  http://www-kekb.kek.jp/
→Belleのwebページ
  http://belle.kek.jp/

→関連記事
  ・03.05.15
    KEKBが目標性能を達成 〜高エネルギー加速器の新時代を拓く〜
  ・03.05.22
    光と光をぶつけたら 〜光子・光子衝突実験〜
  ・03.09.11
    素粒子の周期律表? 〜ハドロン分光学〜
  ・03/10/23
    Belle測定器が再稼働 〜生まれ変わった飛跡検出器〜
  ・03.11.20
    クォーク4個の新粒子? 〜 Belleグループが発見した中間子 〜
  ・04/04/22
    KEKBの快進撃(1) 〜連続入射で世界最高性能を更新中〜
  ・04/05/06
    KEKBの快進撃(2) 〜Belle測定器の対応〜
  ・04.07.22
    新粒子を発見しよう! 〜世界初! 粒子探索プログラム B-Lab〜
  ・04.12.09
    ノーベル賞とトリスタン 〜今年の物理学賞を支えた世界的成果〜
  ・05.03.01  プレス記事
    Belle実験が新粒子を次々と発見  − 量子色力学に新展開 −
  ・05.03.03
    「魅力」あふれる素粒子? 〜チャームクォークの物理〜
  ・05.07.07
    クォークの世代を越えて 〜新しい素粒子反応を発見〜
  ・05.11.10
    時間の向きを逆にしても同じこと? 〜素粒子の世界の時間反転〜

 
image
[図1]imageParticle Data Group
J/ψ粒子の仲間のうち「ψ」という文字を名前に含むものは、電子陽電子衝突実験で発見された。図の横軸は、電子と陽電子のエネルギーの和である。このエネルギーを変えながら反応確率を測る実験を続けていくと、ところどころに反応の強いところがあり、グラフのプロットでは「山」となって現れる(この図の縦軸は、ハドロンという種類の粒子が生成される割合を示すものである)。図では6つの「山」が見えており、それぞれが違う種類の「ψ粒子」の仲間がつくられたことを示している。
拡大図(53KB)
 
 
image
[図2]
Z(3930)が見つかった粒子反応の模式図。
上図:光子と光子がぶつかって Z(3930)粒子ができる。光子は無くなる。
下図:Z(3930)は、D中間子と反D中間子に壊れ、D中間子と反D中間子のそれぞれは、さらにK中間子と1個または複数のπ中間子に壊れる。
拡大図(21KB)
 
 
image
[図3]
KEKB/Belle実験で、光子光子衝突から生じたD中間子反D中間子対の不変質量の分布。3.93GeV付近に事象が集まっていることがわかる。これ は、新しいチャーモニウムZ(3930)がつくられて、D中間子反D中間子対に壊れたものと解釈される。
拡大図(33KB)
 
 
image
[図4]
チャーモニウムの性質の表。
いちばん上の行の数字とプラスまたはマイナスの符号は、各中間子のスピンとパリティを表す。各欄には、上から順に、粒子名、質量、発見年が記載されている。今回のZ(3930)はχ'c2中間子の有力候補なので、それに対応する場所に記載した。X(3872)、X(3940)、Y(3940)については、正体が わかっていないので欄外に載せたが、X(3940)については、η''cの候補としても扱った。
拡大図(53KB)
 
 
image
[図5]
チャーモニウムの質量をグラフ化したもの。 チャーモニウムの質量は、スピン・パリティ、チャーモニウムを構成するチャームクォークと反チャームクォークとの間の軌道角運動量、動径方向の励起(主量子数)によって決まる。最初に見つかったJ/ψ粒子はスピンパリティが「1」の一番軽い粒子。今回、右上のχ'c2に対応すると思われる粒子が見つかった。
拡大図(18KB)
 
 
 
 
 

copyright(c) 2004, HIGH ENERGY ACCELERATOR RESEARCH ORGANIZATION, KEK
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
proffice@kek.jpリンク・著作権お問合せ