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LHCの復旧へ 2009.2.19 |
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〜 修理と運転再開スケジュール 〜 |
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昨年9月に世界最大の加速器への最初の陽子ビームを入射する様子が全世界に同時中継され、一躍有名になったスイス・ジュネーブ郊外のCERN研究所ですが、その9日後には一周27キロに及ぶ地下のトンネル内部に設置された超伝導磁石の配線の一部が破損し、運転休止を余儀なくされました。その後、事故原因の究明と対策が進められ、復旧に向けての作業が続いています。 14年の歳月と国際協力 ヒッグス粒子の発見や超対称性粒子などの新しい物理の探索を目指す大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が昨年9月に完成しました。LHCは、スイスの欧州合同原子核研究機構(CERN)に建設され、総建設費は約5,000億円を越える素粒子物理学で最大のプロジェクトです。周長27km、山手線のラインに匹敵する長さの地下トンネル内に設置された約1,700台の超伝導マグネットが作る強力な磁場で陽子ビームを光速近くまで加速し、14兆電子ボルト(14TeV)というとてつもなく大きなエネルギーで陽子ビーム同士を反対方向から衝突させるというものです。 1995年、この計画にヨーロッパ以外の地域でいち早く建設協力を宣言したのが日本でした。後にインド・ロシア・カナダ・アメリカが参加してヨーロッパが主導する全世界的プロジェクトとなりました。KEK では陽子衝突の頻度(ルミノシティ)を上げるために必要な衝突点用超伝導4極マグネットの開発と製造に成功し、技術的にも大きくこの計画に貢献してきました。 世紀の瞬間の熱気 完成したばかりのLHCに初めてビームを入射して加速器を1周させる「ファーストビーム」が2008年9月10日に試みられました。この日、世界各地から300人以上の報道レポーターがCERNに押し寄せました。イギリスBBC放送による数時間の現場中継は全世界に放送され、記念すべき一瞬をこの目で見ようと、世界中で人々が見守りました。CERNの加速器コントロールルームには歴代のCERN所長はじめ多くの関係者が集まりました(図1)。 ビームの入射は8つに分かれた加速器セクターひとつずつに10分おきに進んでいきました。緑色のビームモニターに黄色のスポットが見えるたびに拍手が会場から沸き起こり、ビームが1周を達成する直前になると会場は静まりました。10時28分、スクリーンにビームが加速器を1周したことを現す2つのスポットが見えると、歓声と拍手がしばらく続きました(図2)。図3はその時のATLAS測定器のコントロールルームの様子で、研究者の興奮と熱気が伝わってくるようですね。 反時計回りのビーム周回もほどなく成功し、インターネット上ではLHC成功を祝して検索サイトのグーグルのロゴがLHCで囲まれ(図4)、それを見た関係者はさらに盛り上がり、まさにお祭りムードとなりました。 不測の大量ヘリウム漏れ ビーム周回の成功の高揚も醒めない9日後の9月19日、LHCへの通電テストを行っている最中に液体ヘリウムを保持するパイプが溶けるという事故が発生しました。パイプから漏れて気化したヘリウムガスは100台近くのマグネットの真空容器内を衝撃波のごとく走り抜け、多くのマグネットを破壊してしまいました。原因はマグネット間の超伝導ケーブル結線部のハンダ付けが1万ヵ所以上あるうちの1か所だけ不完全であったためと推定されました(図5)。気化したヘリウムガスの圧力による連鎖破壊という二次的被害が事故の規模を大きくしたものです。約2ヶ月にわたる調査の後、修理計画が作られ、約50台の超伝導マグネットが修理のため地上に搬出されました。LHC担当者は現在、事故の教訓を活かして、予兆を検出するためのさらに強力なモニターシステムの開発や、連鎖的な破損を防止するための数々の対策を施しています。 完成記念祝賀式典 残念な事故の後でしたが、10月21日には、14年にもわたる建設の完成を記念してスイス大統領やフランス首相をはじめ、関係各国の大臣や著名な物理学者など約1000名を招待したLHC完成記念祝賀式典が盛大に行われました。参加国代表者らの写真撮影(図6)後、CERN所長や各国代表のスピーチがあり、続いてスイスロマンドオーケストラによる演奏とナショナルジオグラフィックの写真家の手による映像のコラボレーションという華麗な演出も用意されており、出席者の目と耳を楽しませました。 盛大な式典後のビュッフェ会場で行われたイベントが実はもうひとつありました。ダルマの目入れです(図7)。このダルマ、日本が1995年に LHC建設協力を宣言した時に、CERN側が用意したダルマに当時の与謝野文部大臣が片目を入れたものです。その後、CERN所長室に 13年半眠り続けたダルマは、ようやくLHCが完成して両目をぱっちりと開けることができました。このダルマは、LHC建設当初から現在までの、日本関係者のLHCに対する想いを現す象徴といえましょう。 9月の運転再開へ向けて CERNはLHC加速器の修理と運転の計画を今年2月9日に公表しました。それによると、ヘリウム漏れ事故の修理がすべて終わり、ビームテストが開始されるのは2009年9月とのことです。陽子ビーム衝突実験のための運転は2009年10月末から2010年の秋まで継続して行われる予定です。昨年の事故から1年間、実験が延期となったのは残念なことですが、ATLAS実験グループやCMS実験グループなど、加速器から生み出される超高エネルギーの素粒子反応をとらえる測定器を担当する研究者たちは、装置の状態を万端に整え、実験開始の時を固唾を飲んで待機しています。 ところで2006年に世界中で大ヒットした映画「ダ・ビンチ・コード」の原作者ダン・ブラウンが書いたもう一つの長編推理小説「天使と悪魔」では、CERNが殺人事件の舞台となります。CERNは映画版の「天使と悪魔」の撮影に全面協力し、12日、俳優トム・ハンクス、アイレト・ズラーと、監督ロン・ハワードらをCERNに招き、ソニーピクチャーズと共同で記者発表を行いました(図8)。 監督のロン・ハワードは「CERNとともに仕事をできたことは素晴らしい。ここにいる科学者たちはとても協力的で、科学について教えてくれたり、信じられないような素晴らしい場所に連れて行ってくれました。ここで行われている研究はファンタスティックだ」と述べたそうです。 映画「天使と悪魔」は5月15日に世界中で公開されるそうです。映画の中でCERNがどのように描かれるのか、楽しみですね。 |
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