化学分析による和紙の非破壊材質判別への試み
放射線科学センター環境計測グループでは化学分析による研究支援を実施しています。その一環で、2022年度より東京大学史料編纂所とともに、紙文化財への適用を目指した和紙材質(素材植物+添加物)の判別に関する共同研究を進めています。ここでは、現在までの検討結果の一部を紹介します。
素材や組成など和紙の持つ科学的な情報は、歴史を復元する有力な証拠となるため、情報を可能な限り非破壊で獲得する分析手法に対する期待が非常に高まっています。我々が取り組んでいるのは、全反射フーリエ変換赤外分光光度法(ATR-FT-IR)と主成分分析(PCA)を組み合わせた手漉き和紙の材質(素材植物+添加物)判別法の確立です。素材植物の異なる和紙の赤外吸収スペクトルを図1に示します。雁皮、楮、三椏は和紙の代表的な素材植物です。いずれもセルロース由来のスペクトルですが、1600 cm⁻¹付近に僅かな違いが確認できます。各和紙のスペクトルを20回測定して、統計的な解析手法であるPCAを適用した結果が図2です。1本のスペクトルが1個のデータ点に対応します。スペクトルの僅かな違いを目視で判別するのは難しいですが、PCAを適用することで素材植物を判別可能であることが伺えます。この結果を踏まえて、現在は、非破壊性・判別性の向上を目的とした測定法の改良やスペクトル解析手法の高度化などに取り組んでいます。


*発表実績
1)日本分析化学会第72年会,熊本城ホール, 2023.9.13-15, Oral
石田正紀, 他「赤外分光法と統計解析・機械学習による和紙の識別に関する諸検討」
2)2024年度機器・分析技術研究会,広島大学, 2024.9.5- 6, Oral
石田正紀, 他「FT-IRと主成分分析による和紙の識別に関する検討」
3)第40回近赤外フォーラム,東京大学, 2024.11.13- 14, Poster
石田正紀, 他「赤外分光法と主成分分析による和紙の材質識別」
*用語説明(Wikipedia)
フーリエ変換赤外分光光度法(FT-IR)
主成分分析(PCA)