目指せイチロー!

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ILC通信02.indd野球をやったことのある人なら、一度は考えたことがあるでしょう。どうしたらヒットを、ホームランを打てるのかを。うまくバッティングするためにはスイングのスピードが重要な要素の一つに考えられます。鋭いスイングが鋭い打球とヒットを生み出します。これを加速器でたとえてみましょう。バッティングそのものが加速器で、スイングのスピードに当たるのが加速勾配です。加速勾配は1メートルの長さの間に電子をどれだけ加速出来るかを表す指標で、メガボルト毎メートル(MV/m)という単位で表されます。この数値が大きければ大きいほど良い加速性能を持つ加速器という事が出来ます。つまりより高いエネルギーへと電子を加速出来るわけです。
究極の高エネルギーを目指すILCでは、高い加速勾配を持つ加速空洞(電子を加速する部品)が必要とされています。より高い勾配をめざして研究者の努力が続けられています。高エネルギー加速器研究機構(KEK)で空洞が開発された当初の目標勾配は51MV/mであり、斎藤健治氏をはじめとする研究グループはその加速空洞に「ICHIRO」と名付けました。メジャーリーグで活躍中の野球選手イチローの背番号51番にちなんだものです。研究者達はイチローのように世界で活躍する空洞になって欲しいという願いをこめたのです。
6月13日にKEKでICHIRO単セル空洞の勾配が53.5MV/mの世界記録を達成しました。この空洞は、2005年秋にDESY研究所(ドイツ)の研究員JacekSektuwicz氏と共同開発し、KEKが製造したものです。
ILC通信02.indd今回実際の測定を行っていたのは、若い3人でした。古田史生氏(KEK)は「またやったぞ!」と興奮気味に述べました。彼は前回の記録が出た時も測定者の一人でした。Juho Hong氏(ポハン工科大学、韓国)は「世界記録とは気づきませんでした。いつものように測定していただけなので」と驚きを隠せない様子。ICHIRO空洞の測定を始めて1ヶ月も経たないうちに、世界記録を目の当たりにしたのです。
彼は、超伝導RF空洞の研究のため韓国から派遣された学生で、KEKでは新たに単セル空洞を組立て、シミュレーション、測定、表面処理までの全過程を勉強中です。岩井大蔵氏(清水製作所)は、5月からKEKで共同研究を始め、性能がよく、最大限コストを抑える加速空洞の作成を目指しています。
2004年秋から超伝導空洞の研究を斎藤氏と共に続けている佐伯学行氏(KEK)もILCには若者の存在が重要であると述べました。「ILCは若い人がやらないとできません。3人の若者がこの実験で測定を行っていたのは象徴的なことです。若い人が関わらなければILCは多分実現しないでしょう」イチローをめざし、若者たちの挑戦はこれからも続いていくでしょう。