素粒子理論を用いて宇宙のことを研究されている東京大学大学院理学系研究科の佐藤勝彦教授にお話を伺いました。
─インフレーション宇宙論についてご説明いただけますか?
ヒッグス場のように潜熱を解放する理論があると、宇宙に相転移が発生します。ものすごい熱エネルギーが出て、宇宙の初期の様子ががらっと変わることになります。これが空間に対する斥せきりょく力(反発力)になって、急激な膨張になると気がついたのです。「これこそ火の玉宇宙の起源になる」と思いました。
─先生がこの理論を思いつかれたきっかけはなんでしょう?
素粒子のレベルで宇宙を考えたことですね。電磁気の力と弱い力を統一したワインバーグ・サラム理論を知り、「宇宙初期のことを考える大きな武器を手に入れた」と思いました。動機は宇宙初期の研究ですが、「強力な武器を手に入れたんだから攻めていこう」と。
-素粒子理論との関わりが深かったのですね。
ノーベル賞物理学者のハンス・ベーテが湯川先生の招きで京都大学に滞在した時、恩師の林忠四郎先生の紹介で、私の研究テーマに興味を持っていただきました。CERN研究所で中性カレントという現象が発見され、ワインバーグ・サラムが確からしい、と言われはじめた時代です。小林誠先生に相談に乗っていただいて、ニュートリノが超新星爆発に与える影響を調べていました。
この研究はベーテとの共著論文になりました。とても幸運でしたね。
─素粒子の理論を誰よりも早く宇宙にあてはめるという姿勢がすばらしいですね。その後、COBE衛星やWMAP衛星によって、宇宙の初期がものすごい精度で観測できるようになりました。
COBEの観測で今年のノーベル物理学賞を受賞したスムートは「この宇宙の地図で、人々はインフレーションを信じるようになるだろう」と言ってくれました。
WMAPはさらに精密な観測をした上に、宇宙のエネルギーの7割は「ダークエネルギー」という未知の形態であるという驚くべき結果をもたらしました。21世紀の物理学の大きな課題ですね。
─今後の素粒子実験に期待されることはありますか?
ヒッグスを詳しく調べてほしいですね。特に質量の精密な測定。寿命の測定も大切です。真空の相転移が確かなものであることを調べてほしいと思います。素粒子の理論と実験と宇宙の観測から、インフレーションがこう起こるべきという話がつながるかもしれない。
─どうもありがとうございました。