地球の丸みとトンネル

アーカイブ

ILC通信16.indd

 

地下鉄や送電線、上下水道、共同構など、多くの都市の地下は、人々の移動や、エネルギー・水など私たちのライフラインの輸送のためのインフラがはりめぐらされています。いま、「大深度地下」と呼ばれる地下40m以下の空間は、将来開発の場として注目されており、地底音楽祭を行って話題となった日比谷共同構や、小柴昌俊東京大学特別栄誉教授のノーベル賞受賞で有名になった岐阜県神岡町のニュートリノ研究施設カミオカンデ、そして大規模地下発電所など、まるでSF小説のようにも思える地下施設が、次々に建設されています。
国際リニアコライダー(ILC)も、地下に建設することが計画されている研究施設です。リニア(=直線)、コライダー(=衝突型粒子加速器)、という名の通り、ILCは全長31kmの直線の加速器で、地下深くに掘られる、直径約4mのトンネルの中に設置されます。そして、加速器用のトンネルに加えて、加速器にエネルギーを供給するための装置など、様々な機器が収められるトンネルが10mほどはなれて並走します。さらに、この二本のトンネルは数十m毎に小さい連結坑で結ばれ、ILC中央部には、測定器を収容する幅35m、高さ40m、長さ120mほどの巨大空洞が作られます。また、約5km毎には、地上とトンネルを結び人や物資を地上から輸送するアクセス坑が作られます。あちらこちらにトンネルがはりめぐらされて、まるで、巨大なアリの巣のようです。
加速器とは、粒子を加速してエネルギーを与える機械ですが、大きく分けて、直線加速器と円形加速器の2種類があります。円形加速器は、ビームが円軌道を何周もすることによって加速し、粒子にエネルギーを与えますが、ビームを磁場で曲げるときに光を逃がしてしまい、粒子のエネルギーを失ってしまいます。そこで、ILCでは、その名の通り、直線状にして、高いエネルギーの実現を目指すのです。ですから、加速管を設置するトンネルも、「まっすぐ」に掘り進めることになります。しかし、この「まっすぐ」ですが、私たちの住む丸い地球では、ちょっとやっかいなことになるのです。
31kmの長さを端から端まで見渡せるように「まっすぐ」掘り進めたとしましょう。地球は丸いので、トンネルの両端と中央部の標高差は、約19mになります。つまり、このトンネルは、中央部分が一番低くなっているわけです。このトンネルの端から水を流すと、水は中央に向かって流れていきます。ILCでは、電子・陽電子のビームを加速するために、超伝導加速技術を使います。ILCで使うニオブという金属でつくった加速空洞を、マイナス273度という極低温まで冷やして超伝導状態にするためには、液体ヘリウムを使います。液体ヘリウムが中央の方向に向けて流れて行ってしまうと、ヘリウムに偏りが起きてしまい、加速器がうまく働きません。そこで、トンネルは、地球の弧に沿って掘ることになるのです。
このように、ILCを実現させるために必要となる条件のひとつが、高度なトンネル掘削技術です。日本は、火山と断層が多い日本の山や、高度な技術を要する海底トンネルを掘ってきた経験で培われた、世界に誇る技術力を持っています。ILC実現に必要な掘削技術、そして地質調査については、また別の機会にご紹介しましょう。

 

 

※「超伝導」:特定の物質が、ある一定の温度以下になると、電気抵抗がゼロになる、物体内部から磁場が排除される、などの現象が起きること