トンネル掘削と地質調査

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鉄道のトンネル工事で使われたTBM

 

世界の素粒子物理学者が実現を目指して研究を進めている国際リニアコライダー(ILC)は、長さ31キロメートルに及ぶ地下トンネルの中につくられる超精密加速器です。その規模の大きさから、ILC建設には、克服すべき様々な技術的課題がありますが、なかでも特筆すべきもののひとつは、なんといっても加速器を収める、「直線」地下トンネルの建設といえるでしょう。

ILCを実現させるために必要となるのが、高度なトンネル掘削技術。火山と断層が多い日本の山や、高度な技術を要する海底トンネルを掘ってきた経験で培われた日本のトンネル掘削技術は、世界的に高く評価されています。なるべくまっすぐな線路を敷くために多くのトンネルを必要とした東海道新幹線や、世界最長の海底トンネルである青函トンネル、そして東京湾アクアラインなど、これまで多くの大規模トンネル工事が行われてきました。また、英仏をつなぐユーロトンネルの工事での、日本のトンネル掘削マシンの活躍をご存じの方も多いでしょう。

トンネル工事に使われる掘削マシンは、おもに2種類に分類されます。都市部等に多く見られる軟弱で崩れやすい土質に適している「シールドマシン」、そして日本の山岳地帯によく見られる岩盤など硬くて均質な地盤に適したTBM(トンネル・ボーリング・マシン)です。多くのトンネル工事では、両方のマシンが併用されていますが、TBMの特徴は、高速で経済的な掘削ができることです。しかし、TBMを使った工事では、時にやっかいなことが起こります。TBMは半径方向に延びるジャッキを地山に突っ張り、マシンを前に進めます。地盤がしっかりしたところでは、その威力を発揮し、高速で安全な掘削を行うことができます。しかし、急に地質が変わり、粘土質などの柔らかい地盤にジャッキを押し込んでしまうと、TBMは身動きが取れなくなってしまいます。セメントミルク等を地盤に注入するなどして脱出を図るのですが、努力の甲斐なく、地中に眠ることになったTBMマシンもあるとのこと。このような状況は、マシンを無駄にしてしまうことはもちろんですが、工期にも、安全性にも大きな影響があります。そこで不可欠なのが、地質調査です。

ILCのトンネル建設において、一番重要なのが地盤です。ILCでは、衝突するそれぞれのビームの寸法は、高さ5.7ナノメートル※、巾640ナノメートル、長さが300ミクロン※という非常に小さいものです。こんなに小さいビーム同士を衝突させるためには、気の遠くなるほど高度なビーム制御が必要になります。そのようなビーム制御を可能にするためにも、トンネルの建設場所は、安定した地盤であることが最も重要です。そこで、ILCの建設用地としては、地盤が岩質で崩れにくい場所であることが条件となります。高い剛性を持つ岩盤の地下空間であれば、実験ホールのような構造物を自立させることも可能であり、工期の短縮や建設コストの削減にもつながるからです。また、地盤がしっかりしているのと同時に、十分に長い直線部が確保できる、ということも重要です。通常のトンネル工事であれば、万が一、掘っているうちに不測の事態が生じても、迂回するという方法があります。しかし、リニアコライダーの場合は、ビームを迂回させるわけにはいきません。ILCのトンネルはいったん掘り始めたら、まっすぐ掘り進むしかないのです。

ILCの研究者チームの調査では、日本国内でもILC建設用地として適していると考えられている地域が多数存在しています。日本でのILC建設の可能性を検討するためにも、より詳しい地質調査がとても重要になるのです。

※1ナノメートル=100万分の1ミリメートル、1ミクロン=1000分の1ミリメートル

 

スイカ甘いか̶地質調査の方法

地質調査の目的は二つ。第一に、直接見ることのできない地下の岩盤を構成する地質構造を明らかにすること、第二に、トンネルとして掘削しなければならない岩盤の工学的性質や地下水の性状を見極め、それに見合った工事の計画を立てること、です。

調査方法には、現地に足を踏みいれてその地質構成や構造を把握する「地質踏査」、岩盤を伝播する地震波(弾性波)の速度が、岩盤の性質によって異なることを利用した「弾性波検査」、そしてボーリングコアを採取することにより、実際の地下の岩石を直接手にとって見る、「ボーリング調査」があります。

例えてみれば、八百屋でスイカを買う時に、スイカの表面の色艶、傷の有無を見て(地質踏査)、コンコンとたたいて、その音から詰まり具合を判断し(弾性波調査)、時には割って中身を見て、スイカの熟れ具合を確かめる(ボーリング調査)といったところです。

しかし、実際に一番甘くて身の詰まったスイカを確かめるには、割って食べてみるのが一番。工事の安全性や工期、建設コスト等を確認するためにも、ボーリング調査は不可欠です。