「進」~2009年のILCを振り返る

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1,2.2月26日、東京・グランドプリンスホテル赤坂で先端加速器科学技術推進シンポジウム「日本発宇宙行き~国際リニアコライダー(ILC)実 現に向けて」開催。挨拶をする鳩山由紀夫氏(民主:リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟・会長代理)。「国家戦略としてのリニアコライダー国際研 究所建設推進」と題して講演を行う、河村建夫氏(自民:同議員連盟・共同幹事長)。

3.多数の収束磁石が設置されたATF2ビームライン。これらの磁石を用いて電子ビームを35ナノメートルまで絞り込む。

4.KEKのATFで開発されたビームを蹴ることで角度を変える装置「キッカー」。中央部に見える銀色の円筒状の装置が撤去された既存のキッカー。その前にある、赤い電磁石間をわたる銀色の細長いパイプ状のものが新たに開発した高速キッカー。

5.9月上旬、KEKでアジアの加速器研究施設の広報担当者らが集まる初の会合が開かれた。

6.ILCの測定器のうちの一つとして認証を受けたILD測定器の概念図。

7.KEKのホームページで連載中の科学マンガ「カソクキッズ」。10月には、序章から第5話までを加筆修正した単行本RunI(ラン・ワン)が完成。
http://www.kek.jp/kids/comic/index.html

8.11月8日、福岡市の西鉄ホールにおいて開催された先端加速器科学技術推進シンポジウム「宇宙の謎に挑む日本の貢献」。仙台(6月2日)、広島(7月4日)と、全国各地で開催した。

 

 

早いもので今年も残すところあとわずか。100年に一度と言われる未曾有の不景気、政権交替、薬物汚染、事業仕分け・・大きな時代のうねりの中、暗い話題ばかりが目立ったように思える2009年。11日に発表された、一年を象徴する漢字を選ぶ「今年の漢字」は「新」。さて、国際リニアコライダー(ILC)にとってはどんな年だったのか、この一年を振り返ってみよう。

シンポジウム

南部、小林、益川、3名の日本人物理学者のノーベル賞受賞で暮れた2008年。2009年も引続き、ノーベル賞関連の講演会やシンポジウム等が相次いで行われた。また、2008年から活動を開始した先端加速器科学技術推進協議会も、活発な広報活動を展開。「行く宇宙、観る宇宙、創る宇宙」をテーマに、3回シリーズのシンポジウム「宇宙の謎に挑む日本の貢献」を、仙台、広島、福岡で実施。宇宙をキーワードにすることで、これまで「加速器」という言葉になじみの無かったたくさんの方に参加して頂くことができた。来年以降も、シンポジウムは定期的に開催される予定だ。

技術開発の進捗

要素技術の開発や試験施設の建設も着々と進んだ。年明けから、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の先端加速器試験装置(ATF)では、ナノメートルレベルの電子ビーム開発向けたビームライン「ATF2」の建設が完了し、本格的な運用を開始。10月末には、ATFで大電力半導体技術を用いる高速キッカーの試験にも成功し、ILC実現に向けて弾みがついた。また、ILCの心臓部である「超伝導加速空洞」の研究開発で課題となっているのが、超伝導加速空洞の安定性、成功率の向上だ。早野仁司氏(KEK准教授)、岩下芳久氏(京都大学准教授)および田島裕二郎氏(株式会社東芝)は、空洞内表面状態の精密観測を目的として、光学カメラとミラーを組み合わせた「光学検査システム」を開発。これによりこれまで正確につかむことが出来なかった空洞内表面の微細な欠陥を可視化し、次々とその構造や形状を解明できるようになった。

加速器と測定器の設計

国際協力で加速器開発を進める国際共同設計チーム(GDE)では、加速器設計の最適化とコスト削減への取り組みが続けられてきた。2004年に発表された基準設計報告書をより現実味のある計画にまとめ、各国政府への提案へとつなげることが狙いだ。GDEは来年夏頃までに新たなベースラインを発表すべく、提案書をまとめており、今後その評価作業が進められる予定である。測定器開発の取り組みでは、3月に測定器研究グループから測定器趣意書(LOI)が提出され、国際測定器諮問委員会(IDAG)によって評価が行われた。提出された「国際大型測定器(ILD)」、「シリコン測定器(SiD)」、「4th」、の測定器コンセプトのうち、ILDとSiDが認証を受けた。

アジア

今夏、多数のアジアの学生がつくばに集まった。アジア各国の高校生、大学生が一堂に集まって世界のトップクラスの科学者と議論し対話する「2009アジアサイエンスキャンプ」が8月2~8日に開催されたのである。小柴昌俊氏、野依良治氏、小林誠氏ら内外のノーベル賞受賞者8人が講師として参加。天皇皇后両陛下は、同キャンプのポスター発表をご視察され、送別パーティで学生たちとお言葉も交わされた。また、アジアの加速器研究施設のコミュニケーション分野での国際協力活動の強化を目指して「アジア加速器プラザ」ウェブサイト(http://www.aaplaza.org/)の共同運用も開始されるなど、「アジア」をキーワードとする活動が多く実施された年でもあった。

2009年、着実に実現へ向けて進捗したILCの研究開発の取り組み。ILCの今年の漢字を選ぶとしたら、「進」だろう。今年一年のご支援、ありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。