平成23年3月11日(金)に発生した東日本大震災は、戦後最大の未曾有の大災害となった。お亡くなりになられた方々に心よりお悔やみ申し上げるとともに、被災地の皆様に謹んでお見舞い申し上げます。また、一日も早い復興を心より祈念致します。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)でも建物や実験機器等に大きな被害を受け、被害状況の詳細な調査が進められている。ILC推進活動への影響はあるのか。鈴木厚人KEK機構長に、KEKの今後のILCに向けた取り組みについて聞いた。
「KEKのILC関連の活動については、何ら変更はありません。ILCに関しての最重要課題は、先端加速器試験装置(ATF)と超伝導RF試験設備(STF)の復旧です。『プレILC研究所』に関する活動も引続き行っていきます。さらに、ILC建設サイトの技術的基準条件の設定を検討する国際委員会も立ち上がっていますので、土木・施設などの技術的検討に向けた活動にも、注力していく予定です」と、今後のILCに関する活動について鈴木氏は語る。
世界のILC研究者グループは、2012年末の技術設計報告書(TDR)の完成を目指してR&Dを進めている。この報告書の完成で、現在加速器の設計を進めている国際共同設計チーム(GDE)と実験管理組織(RD)は、その役割を終える。「プレILC研究所」とは2013年からのILCの活動を管理運用していくILC研究所の前身組織。プレILC研究所および本格的なILC国際研究所をどのように運営していくべきか、世界の研究所が得意分野を持ち寄って力を発揮しやすい運営形態を探る議論が国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)の場で展開されている。
「将来のILC研究所には、マルチナショナルラボラトリー(国際連携研究所)のガバナンスモデルが最も適していると考えています」と鈴木氏は言う。「世界の研究者コミュニティはその前身となるプレILC研究所については、国際連携研究所として設立することで合意しています」。「国際連携研究所モデル」とは、国、地域、研究所、大学等が「メンバー」として参加することで組織を構成し、それらのメンバーが人的資源、加速器構成要素や設備、そして資金拠出、と様々なかたちで研究所に貢献するモデルのことだ。現在の研究推進組織運営を拡張することになり、移行は比較的スムーズにできると考えてられている。
スイスとフランスの国境にある、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)は、現在稼働中の世界最大の加速器だ。次々と粒子衝突反応の観測データが蓄積されていて、新しい物理発見が期待されている。最も注目が集まるのは、質量の起源とされる「ヒッグス粒子」が、どの質量領域で見つかるか、あるいは全く見つからないか、ということだ。この結果によって、どんな次世代加速器をつくるか決めるべき、との意見もある。
これに対して鈴木氏は「私は、ヒッグス粒子がどこにあろうが、ILCは物理研究を進めるうえで重要な研究施設だと考えます。その実現のためなにをすべきか、私たちは常に真剣に考えています」と語った。