加速器図鑑:LHC と超伝導磁石

コラム

LHC の超伝導磁石のカットモデル。ビームの 進む向きに垂直な断面で切ったもの。層状に見えるブロンズ色のものが超伝導体によるコイルの断面。LHCでは2つの陽子ビームを逆向きに廻して衝突させる。そのために極性の違う2つの超伝導磁石を1つにまとめた2-in-1 と呼ばれる構造をしている。

LHC の主要部は地下約100m※ 1 にある一周27km のトンネルの中にずらっと並んだ超伝導磁石だ。LHC はILC と違って円形のリング状加速器だ。陽子はリングの中をぐるぐると何周も廻って高いエネルギーに到達する。陽子はリ ングの中の加速部を何度も通るので一回の加速は弱くても大丈夫である。曲げても放射光をほとんど出さない陽子の性質のおかげでこのような加速が可能になる。この点が曲げると放射光を出してエネルギーを失う電子を加速するために直線上をしているILC との違いである。
しかし7TeV(テラ電子ボルト)※2 という高いエネルギーのビームを曲げるのは大変だ。LHC ではこれを実現する為に2 つのことをしている。一つは出来るだけ曲がりをゆるくすることだ。LHC が一周27kmと巨大な円形をしているのはこの為だ。もうひとつが強力な超伝導磁石である。陽子を曲げる為の磁石のコイルを超伝導体で作れば、電気抵抗がゼロである為に電流密度を高くすることができ、非常に大きな電流が流せる。これにより強力な磁場を発生することで高いエネルギーのビームを曲げることが可能になる。常伝導磁石の場合はコイルの抵抗の為に発生させる事の出来る磁場の上限は約1.5 テスラであるが、 LHC の超伝導磁石はこれを大きく上回る8 テスラという磁場を発生する。これがLHC の高エネルギー実現のカギである。このような磁石が1232 台、トンネル内に並ぶ。
※ 1)深さは場所により異なる。
※ 2)LHC の設計値は7TeV。現在はこの半分の3.5TeV で運転中。
1TeV = 1000GeV。