KEKB 等への入射器として使われている線形加速器に使用されているクライストロン。高さ約 2 m の縦型である。電子ビームは下から上へと打ち上げられる。上部に出力空洞がありそこで作られた電波が導波管(銅で出来た四角いパ イプ)を通って線形加速器の加速管へと運ばれる。
クライストロンは大出力の電波発生装置である。クライストロンで発生した電波を加速管に送り込む。加速管は金属の筒で、内面の形状を工夫する事により、クライストロンから送り込まれて来た電波を「電子を押すような」形に整える。電子は加速管の中でこの電波に「押されて」加速されていく。クライストロンと加速管は、このように1つのセットとなって始めて活躍する事が出来る。ところでクライストロンという名前で「おや?」と思った読者もいるのではないだろうか。読者の中にはサイクロトロンやシンクロトロンという加速器をご存知の方も多いと思う。サイクロトロンやシンクロトロンは加速器の形式を表す一般名詞だが、9 月の末に惜しまれながら運転を終了した米国の大型加速器はテバトロンという名前であった。そうです加速器にはトロンとつくものが多い。それではなぜ電波発生装置をクライストロンと呼ぶのか。それはクライストロンもまた加速器だからである。クライストロンは大ビーム電流、低エネルギーの小型電子加速器*1 である。クライストロンの最終部には出力空洞と呼ばれる金属で出来た茶筒状のものが付いている。ここを大電流の電子ビームが通った時に電波が発生する。この電波を加速管に送るわけである。
クライストロンと加速管のセットは、つまり大電流、低エネルギーの電子ビームで大出力の電波を作り(ここまでがクライストロン)、その電波を加速管に入れ、加速管の中で小電流の電子ビームを加速して、高エネルギーのビームを得る、という働きをしている。電気の回路に詳しい人はトランスに似ているなと思ったかもしれない。トランスでは一次側回路に低い電圧で大きな電流を流し、二次側回路に高い電圧で小さな電流を取り出すという事が行なわれる。トランスは英語のトランスフォーマーの略で変換器である。クライストロンと加速管のセットもこの意味で変換器と言える*2。
*1)典型的なサイズは 2 m くらいである。
*2)トランスでは電流は電線の中を流れるが、クライストロンと加速管では電流はビームとなって真空中を走る。