加速器図鑑:ビームパイプ

コラム

KEK の先端加速器試験施設(ATF) の最終収束ビームライン。たくさん並んでいる赤い八角形のものが収束用電磁石。その中心部を貫いて銀色のパイプ、ビームパイプ、が続いている。

ビームパイプとは文字通りパイプである。太さは加速器によって異なるが直径30mm ~ 100mm くらいである。ビームパイプの役割はビームの通り道を造ることである。高速道路などの車の通り道は出来るだけ凸凹が少なくて滑らかである事が望ましい。凸凹があると車が跳ねて進路が安定せずに安全・快適にスピードを出すことが出来ない。同様にビームの通り道は出来るだけ良い真空である事が望ましい。電子ビームを「荒れた道」、例えば空気中を通す事を考えてみよう。そこではビームを構成する電子は空気の分子、窒素や酸素の分子と絶えず衝突しながら飛ぶ事になる。当然、各々の電子の進路は乱され、バラバラの向きを向くようになる。つまりビームの品質が悪化する。このような事の無いように、ビームパイプを置き、その中を真空にするのである。ビームの為に「真空の道」を作るのがビームパイプの役割である。

ILC はその施設全長が 31km*1 という大変長いものである。では「真空の道」も31km なのか?じつはもっと長い「真空の道」が必要になる。ここで ILC で必要となる「真空の道」の長さを調べるため、電子と陽電子の通り道をもう一度確認してみよう

ILC ではまず電子ビームと陽電子ビームの両方が施設中央部で生成される。その後、両ビームはやはり中央部にある各々のダンピングリングで高品質化*2 された後、一度両端に、つまり電子ビームは電子主線形加速器の入口へ、つまり陽電子ビームは陽電子主線形加速器の入口へと送られる。電子主線形加速器と陽電子主線形加速器は両端から中央部に向かって対向する形でおかれている。電子ビームと陽電子ビームは主線形加速器で超高エネルギーに加速され、ILC中央部で正面衝突*3 する。

この電子ビームと陽電子ビームの通り道のすべてにおいて、そこは良い真空に保たれている必要がある。その長さは、施設全長31km の往復に加えて2つのダンピングリングの周長3.4km×2などである。つまり総延長70km に近くなる。ILC では長大な「真空の道」*4 が作られるのだ。

*1)第一期の全長が 31 km、このとき重心系エネルギー 500 ギガ電子ボルト。第二期の全長が 50 km、重心系エネルギー 1000 ギガ電子ボルト。
*2)ビームを構成する粒子(電子や陽電子など)の向きが良く揃っている事。
*3)実際には技術的制限により完全な正面衝突ではなくごくわずか角度がつく。
*4)この「真空の道」はビームパイプだけではなく、ビームを加速する装置「加速管」、ビームの位置を測定する装置「ビーム位置モニタ(ILC 通信62 号参照)」などによって構成される。これらのすべての構成要素は緊密に接続され、一体となって「真空の道」を作る。