ノーベル賞でたどる素粒子の発見物語:5 CP対称性の破れの発見

コラム

1964年、米ニューヨークのブルックヘブン国立研究所にある30GeV(ギガ電子ボルト)のAGS陽子シンクロトロンを使い、陽子ビームをヘリウムに当て、電荷を持たない中性のビームを観察していた米国プリンストン大学のバル・フィッチ博士とジェームス・クローニン博士は、長寿命の中性K中間子が、通常は3つのパイ中間子に壊れますが、わずかに2つのパイ中間子に壊れることを発見し、弱い相互作用の関わる現象ではCP対称性を破ることがあることを発見しました。

 

まず、Pはパリティ対称性を意味し、鏡像対称性とも呼ばれます。実験を映像に撮ったとします。その時、鏡に映った実験も映像に撮っておきます。そのあとで二つのどちらの映像が鏡に映ったものなのかを区別できない時、その実験の現象はパリティ対称性を持つといいます。実際、電磁気の現象では、区別することができません。ところが1957年にパイ中間子やミューオンや放射性コバルト60が壊れる現象では、二つの映像のうち、どちらが鏡の世界の映像かを指摘できることがわかり、弱い相互作用の関わる現象では、P対称性が破れていることがわかりました。

 

一方、C対称性は、その実験現象に現れる粒子を全て反粒子に置き換えても現象の区別がつかないことを意味します。やはり電磁気の現象では、粒子と反粒子を入れ替えても違いがわかりません。しかし、やはり1957年に弱い相互作用ではC対称性も破れていることがわかりました。

 

それでも、弱い相互作用によりP対称性が破れ、また、C対処性が破れていても、粒子と反粒子を入れ替えを行い、しかもそれを鏡に映した現象の映像は元の現象の映像とは区別がつかず、CとPを続けて行っ対称性「CP対称性」は保たれると考えられていました。実際、P対称性が破れていたパイ中間子やミューオンが壊れる現象でも、CP対称性は保たれていました。ところがAGS加速器を使ったフィッチ博士、クローニン博士が発見した長寿命K中間子が2つのパイ中間子に壊れる現象は、弱い相互作用がCP対称性を破る証拠となりました。

 

この発見により、フィッチ博士、クローニン博士は1980年にノーベル物理学賞を受賞します。そして、その現象を説明しようと試みたのが小林博士、益川博士でした。