ノーベル賞でたどる素粒子の発見物語:「天体物理学への先駆的貢献、特に宇宙ニュートリノ の検出」その3

コラム

<カミオカンデ、超新星爆発からのニュートリノを捉える>

カミオカンデは太陽ニュートリノ観測のために準備が整ったところでした。理論計算によればカミオカンデで観測できるニュートリノ反応は約10秒間に10個くらいでした。カミオカンデは太陽ニュートリノが観測できるまでにノイズのレベルを落としたところでしたから、10秒間にたまたま10個ものノイズが記録されることはないところまで整備ができていました。カミオカンデのデータを調べて見ると、2月23日午後4時35分35秒からの13秒間に11個のイベントが見つかりました。その数日後に米国のIMBという7000トンの水チェレンコフ装置のデータからもカミオカンデの発見時刻に8個のニュートリノ反応があったとの発表がありました。超高温の中性子が冷える時にでてくるのは電子ニュートリノと電子反ニュートリノです。ニュートリノはカミオカンデの水の中の電子と反応し、反ニュートリノは水の中の陽子と反応します。このときベータ崩壊の理論では反ニュートリノの反応の方が起きやすいことがわかっていますので、カミオカンデがとらえた11個のニュートリノは全て反ニュートリノ反応であったと考えられます。

<ニュートリノで捉えた超新星の構造の解明>

カミオカンデで観測されたイベント数やチェレンコフ光の光量から反ニュートリノが発生した場所の温度が400億度であることや反ニュートリノが持ち出した全エネルギーは6X10^45ジュールであることとの見積もりができました。ニュートリノと反ニュートリノの二つが同時に放出されたはずなので、重力崩壊のエネルギーは2倍の1.2X10^46ジュール。更に、素粒子の標準理論によればニュートリノには3種類があり、電子に対応する電子ニュートリノ、ミュー粒子に対応するミューオンニュートリノ、タウ粒子に対応するタウニュートリノがあります。ミューニュートリノやタウニュートリノのカミオカンデにおける反応率は電子ニュートリノより弱いのでカミオカンデの観測にかからなかったと考えられます。しかし中性子星の熱がニュートリノと反ニュートリノになるときは3種類のニュートリノに平等にエネルギーが分配されますので全重力崩壊エネルギーは結局3倍の3.6X10^46ジュールであったと考えられます。これはチャンドラセカールの超新星生成の理論値と誤差の範囲で一致しました。このようにカミオカンデはニュートリノの観測を通じて星の構造などについて詳しい観測ができることを示しました。

<カミオカンデでも観測した太陽ニュートリノの数は理論値より少なかった。>

カミオカンデは1998年には太陽ニュートリノの信号がノイズを上回って観測できるようになりました。カミオカンデはチェレンコフ光の輪からニュートリノが弾き飛ばした電子の方向がわかりますので、太陽から来るニュートリノがわかります。エネルギーが900万電子ボルト以上のイベント解析から、太陽方向を向いたものがほかより2倍ほど多いことが判明し、デイビス博士の1960年代の観測から30年後にようやく第二の実験として太陽ニュートリノをとらえたのです。カミオカンデの太陽ニュートリノの観測頻度は理論値の50パーセントでした。デイビス博士の結果通り、観測値のほうが理論値より小さかったのです。

その後1991年から1992年にかけてロシアとイタリアの研究グループがより低いエネルギーのニュートリノを観測できるガリウムを使った観測の結果が公表され、やはり観測値の方が理論値より小さいとの結果を得ましたが、その小ささは、4つの実験で少しずつ異なっていました。

 

<太陽ニュートリノの観測値が理論値より少ない理由の考察は、ニュートリノの質量問題へ発展>

こうして観測値が理論より低いことが4つの実験で得られましたので、その理由が重要になってきました。1986年二人の若いロシアの物理学者は低い原因はニュートリノの性質にあるのではないかと考えました。太陽内部の高密度物質を通過するときにニュートリノは本当に何も影響を受けないのでしょうか?ニュートリノがゼロでないわずかな質量を持っているならば、高密度物質を通り抜けるときに、もともとのニュートリノの速度はほんの少し遅くなる可能性が示されました。速度が遅くなるということは見かけの質量大きくなって動きにくくなることを意味します。電子ニュートリノの質量はずっと小さいとの仮定のもとで、太陽の内部で重くなり、ミューオンニュートリノの質量と等しくなることがあるとすると、走っているニュートリノの一部がミューオンニュートリノに変身してしまうこともわかりました。するとそれぞれの検出器での検出が難しくなり、減ったようにみえる、、、この現象は「物質中のニュートリノ振動」、もしくはロシア人の頭文字を入れて「MSW効果」と呼ばれたりします。の効果はニュートリノのエネルギーに敏感でミューオンニュートリノの質量が0.003電子ボルトとして計算すると4つの観測結果をうまくせ雨名することができることもわかりました。

こうして太陽ニュートリノの謎により、さらに性能のよい大型の装置で観測を行い、標準理論では想定されなかったニュートリノの質量の問題をはっきりさせる必要がでてきました。カミオカンデはその後スーパーカミオカンデへと進み、2015年のノーベル物理学賞へとつながっていきます。