<先端加速器科学技術推進協議会(AAA)のコラム記事(2018年10月5日掲載)より>
2018年のノーベル物理学賞が,アーサー・アシュキン(Arthur Ashkin)博士,ジェラール・ムルー(Gerald Mourou)博士,ドナ・ストリックランド(Donna Strickland)博士の3氏に授与されました。おめでとうございます。
お三方のうちムルーさんは,2010年に高エネルギー加速器研究機構で高強度場物理研究会(Physics in Intense Field 2010)を開催した時に,科学諮問委員になっていただき,また招待講演をいただくなど,私たちとも交流のある方です。今回の受賞をたいへん嬉しく思っています。昨年のバリー・バリッシュ博士に続き,今回も存じ上げている方がノーベル物理学賞を受賞されたことは感慨深いものがあります。
レーザーと加速器は非常に関連が深いのです。国際リニアコライダー(ILC)でも,ナノメートルのビームの大きさを測定する方法としてレーザーを用いたモニターの開発が行われています。またレーザーと電子ビームを利用して X 線やガンマ線を生成させる技術など,基礎科学と応用の両面で活発に研究開発が進められています。
ムルー博士とストリックランド博士が発明したチャープパルス増幅(Chirped Pulse Amplification=CPA)は,高強度のレーザーパルスを生成する技術として画期的なものでした。図はレーザー強度の進展を表したグラフです。1980年代後半から急激に強度が上昇していることがわかります。これを可能にしたのがCPAです。今では高強度・短パルスレーザー光生成の標準技術として普及しています。
2010年に研究会を開催した時,私たちはムルー氏が近い将来ノーベル賞を受賞されると期待して,研究会のポスターに皆でサインをして記念にしました。それから8年後,ついにそれが実現したことはとても喜ばしいことです。ムルー氏は現在でもヨーロッパのレーザープロジェクト(Extreme Light Infrastructure = ELI) や International center for Zetta-Exawatt Science and Technology (IZEST)の中心人物として活発に活動をされています。
今後も益々のご活躍をお祈りし,また国際会議などでお会いするのを楽しみにしています。
本当におめでとうございました。
高橋 徹
広島大学
先端加速器科学技術推進協議会(AAA)
広報部会副部会長