本記事は、LC NewsLine 5月30日号のディレクターズ・コーナーの翻訳です。オリジナルの記事はこちらをご覧ください。
5月13日から16日まで欧州素粒子物理戦略のアップデートに関するオープンシンポジウムがスペイン、グラナダで開催され、およそ600人の素粒子物理学者が、素粒子物理学の将来加速器計画における物理研究について議論するために集まりました。CERN理事会は、6年または7年ごとに、欧州の素粒子物理学戦略のアップデートを指示します。今回は3回目のアップデートプロセスとなります。欧州の研究者はもとより、アメリカ、アジア、そしてオセアニアを含む他地域からも、かなりの数の研究者が参加しました。
長期的な視点では、CERNにおける大型ハドロンコライダー(LHC)より、大幅に高いエネルギーを実現するハドロンコライダーに大きな関心が寄せられていました。この計画に関して、ニオブ- スズ合金(Nb3Sn)をベースとする高磁場超伝導磁石を開発する努力が続けられています。また、LHC高輝度化アップグレードに必要な11テスラの三極磁石の開発も順調に進んでいます。目標は16テスラの達成です。達成できれば、周長100キロメートルのトンネルの中に建設される100テラ電子ボルト(TeV)の陽子-陽子衝突型加速器の実現を可能にできるでしょう。しかし。材料は脆くて砕けやすいため、磁場からの圧力への耐久性が主要な開発項目の1つとなっています。
概して、将来のリニアコライダーに関連する加速器の研究開発強化に対して、多くの支持が表明されました。プラズマ加速器技術、ミューオンコライダー研究、さらには高磁場磁石が最大の課題であるハドロン機研究まで、幅広い研究開発が支持されています。
近い将来の計画としては、「ヒッグス・ファクトリー」として、電子- 陽電子コライダーを建設することが、必要なステップであるということが広く合意されています。ヒッグス・ファクトリーとしては、日本における国際リニアコライダー、中国の円形電子・陽電子衝突型加速器(CEPC)、CERNのコンパクト・リニアコライダー(CLIC)、そして同じくCERNの将来円形コライダー(FCC-ee)の4つの計画が現在検討されています。シンポジウムで発表された研究によれば、これら4つの加速器は、250または380ギガ電子ボルト(GeV)前後のエネルギー領域で、高精度のヒッグス研究を行うための性能に関して、同様のレベルであることが明らかになりました。円形加速器は低エネルギーのルミのシティが高いため、ZポールやWWしきい値*の研究で有利ですが、線形加速器は、長さを長くすることによるエネルギー拡張性を有しています。
また、欧州素粒子部刷り戦略では、ダークマターや、ニュートリノレス二重ベータ崩壊、重力波などの分野で、天体素粒子物理学のコミュニティと密接に協力すべき、との合意もあるようです。
このシンポジウムを主催した物理準備グループは、コミュニティからのすべてのインプットをまとめて、「ブリーフィングブック」をまとめます。欧州戦略グループが、そのインプットに基づいて戦略を議論し、来年1月に提言を発表する予定です。
欧州素粒子物理戦略のアップデートは世界規模の戦略を立案する上で、中心的なものとなります。2021年からは、米国の戦略を決定する「スノーマスプロセス」が続き、米エネルギー省(DOE)と国立科学財団(NSF)が共同で任命するP5(粒子物理学プロジェクト優先順位付けパネル)による勧告が発表されます。
素粒子物理学は世界規模の協力により発展してきた分野です。我々は、リニアコライダー計画が、これらの国際協力の中心的となる計画の1つであると信じています。
* ヒッグス・ファクトリーとしての電子- 陽電子コライダーは、名目上約240〜250ギガ電子ボルト(GeV)で運転します。これはヒッグス粒子を研究するのに必要な最小のエネルギーです。 ZポールやWWしきい値からZ粒子やW粒子の研究を行うためには、それぞれ約90GeV、160GeVの低いエネルギーで加速器を運用します。