2007年のILCの動き

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2007年も、あと少しを残すのみとなり、あわただしい年の暮れがやってきました。「師走」の由来は「先生が走るほど忙しい季節」という説が一般的ですが、実はこれは当て字。語源としては「年が果てる」意味の「年果つ(としはつ)」が変化したとする説、「四季の果てる月」を意味する「四極(しはつ)」からとする説、「一年の最後になし終える」意味の「為果つ(しはつ)」からとする説など、諸説あるそうです。どの語源が正しいかはさておき、この1年の国際リニアコライダー(ILC)をめぐる動きを振り返ってみましょう。

 

国際共同設計チーム(GDE)は、2007年は年明けからめまぐるしく活動しました。2月8日、GDEは、北京で「基準設計報告書」を発表。この報告書は、今後の研究開発の目標を示すとともに、技術的な詳細を記述する工学設計の出発点ともなる重要な文書です。初めて、コスト試算の具体的な数字も発表されました。2007年は、ここから2010年の工学設計書(EDR)完成に向けて始動した年といって良いでしょう。

 

5月30-6月2日にかけて、独ハンブルグにあるドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)で行われた国際会議は、工学設計に向けた体制整備のマイルストーンとなる会議でした。ILCの研究開発は、加速器はGDEが、測定器はリニアコライダー物理・測定器国際研究組織(WWS)が中心となって、国際的な共同研究体制で進められています。工学設計を作り上げるためには、参加各国の異なる条件を満たし、地域のバランスを維持し、研究開発の資金や人員を配分する、といった様々な課題があります。そこで、管理の枠組みを強化するために、GDEの組織内に新たに「プロジェクトマネジャー」という役割が設けられました。北米、欧州、アジアの各地域から3名のプロジェクトマネジャーが選出されました。アジアからは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の山本明氏が就任しています。

 

また、この会議で、加速器開発と測定器開発の両輪が歩調を合わせて、ILC実現へと向かう体制の重要性が確認されました。世界中の合計数千人にも及ぶ測定器開発研究者の活動をリードする「リサーチディレクター(物理研究責任者)」のポストを新設することが決定されました。そして、10月、この重要ポストに、山田作衛氏が就任しました。山田氏の就任と同時に、国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)は、2010年のEDR完成に向け、2つのILC測定器の基準設計を選択するための趣意書(LOI)の公募を開始しました。公募の締め切りは2008年10月1日となっています。今年は、測定器開発にとっても新たな出発の年となったわけです。

 

このように、組織・体制づくりに研究者が奔走する年となった2007年でしたが、いろいろな試験やそのための施設の整備も着実に進んでいます。KEKでは、ILCの加速器の要となる要素「クライオモジュール」の試験が進んでいます。また、先端加速器試験施設(ATF)には、海外の研究者が多数訪れ、まさにILCの予行練習のような、他の海外の研究所とビデオ会議でつないだ測定試験が行われています。ATFはさらに、アップグレード(ATF2)に向けた工事も着実に進んでいます。

 

2008年は、いよいよスイスの欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)が稼働します。LHCで発見されることが期待される様々な素粒子は、ILCの実現に大きな意味を持ちます。来年はLHCの動きに注目しましょう。