ILCをつくる人: 第5回 奥川 悠元 氏

ILCをつくる人

国際リニアコライダー(ILC)計画は、国際協力で進められている次世代加速器計画です。ILCの実現に向けて活動している人にスポットをあてるインタビューシリーズ「ILCをつくる人」。

第5回は、パリ・サクレー大学と東北大学の博士課程2年の奥川さんです。

科学に興味を持ったきっかけは?

もともとSF作品が好きでした。子どもの頃は「ドラえもん」を見ていて、漠然と「発明家になりたいな。タイムマシンなど、今の世界にない新しいものを創りたいな」と思っていました。今考えると物理学者というよりはエンジニアを目指していたんですね。

中学生の時は、車をつくる技術部に所属していて、1リットルのガソリンで何キロを走れるかというコンペティションに参加したりしていました。そこから、材料や、その材料の仕組み、根本的な世界の法則のようなものに興味を持つようになりました。

高校生の時には物理学に興味を持ち始めていて、2012年のヒッグス粒子発見がちょうど重なりました。「神の粒子」などと言われていて、そんな粒子の発見が「すごい!カッコイイ!」と思い、素粒子物理が研究したいと大学に進学しました。

高校の時に家庭の事情でアメリカに引っ越ししていたので、その流れでアメリカの大学の物理学部に進学しました。

その時の興味を引き継いで、今に至っているという感じです。

アメリカの大学ではどのようなことを?

大学の頃はCMSというLHC(※CERNにある世界最大の陽子陽子衝突型加速器)の実験をやっていました。LHCの研究だとバックグラウンドの処理がメインのタスクになってくるというのがあって、常日頃見ているのがバックグラウンドで、新しい事象が見えてこないというもどかしさがありました。ILCは、クリーンな事象が見ることができることに魅力を感じて、修士からILCに移ってきました。

現在、サクレー大学ではどのようなことをされている?

ILCは、250GeV(ギガ電子ボルト)のエネルギーで走る予定ですが、その時に見える物理の研究をしています。電子と陽電子が衝突してから、ストレンジクオークが出てくる過程を「電弱非対称性の破れ」の探索など、ILCならではでできることを探っています。

また、それに並行して、フランスのパリ・サクレー大学ではILCに搭載する予定のILDという検出器で使われる電磁カロリメータのプロトタイプがあり、その実験もそこで行っています。

物理を研究していて、楽しいなと思うのはどのような時ですか?

自分が想像する形で世界が回っていると仮定して、理論を組み立てた上で実験のシミュレーションをするのですが、うまく行くときと行かないときがある。うまく行くと嬉しいし、うまく行かなくても、どうしてうまく行かなかったのか、考えるのもまた楽しいです。

逆に、つらいのはどんな時ですか?

うまくいかないのは楽しいのですが、煮詰まった時はつらい。こうすればいいと、当てがある時は良いのですが、当てがない時がたまにあって、もどかしい、進まないときはつらかったりしますね。

ILCができたらどんな研究がしたいですか?どんな成果を期待しますか?

現時点ではシミュレーションでしかやりようがないことが、実際にどう映ってくるのか、気になっています。実際の実験では思いもよらない事象が出てきたり、思いもよらないトラブルが起こったりしますが、それをどう臨機応変に対応できるか、が楽しみです。

成果への期待としては、ILCは高精度なコライダーで、シミュレーション時点でもLHCより精度よく見られるので、電弱非対称の破れなど、新物理を発見することを期待しています。

ILCにはどんな価値があると思いますか?

ILCは、文字通り国際的なプロジェクト。実際にこの研究に携わっていて、国際学会で発表する機会も多くあります。それを日本が中心で行っていくことは、私のような若手研究者のキャリア形成上とても有意義なことですし、250GeVで稼働したとして、新物理の発見の宝庫と言っても過言ではないと思います。

日本を中心として、世界の科学を引っぱっていけるというところに大きな価値があるんじゃないかと考えています。