※この記事は、2022年2月8日発行のILCニュースラインに掲載された、中田達也IDT議長のディレクタースコーナーの翻訳です。
国際将来加速器委員会(ICFA)がILC準備研究所設立に向けてILC国際推進チーム(IDT)を発足させてから約1年半が経ちました。IDTの大きな成果として、昨年6月1日にILC準備研究所提案書を完成させました。この提案書への取組みがILCの活動を活性化させ、新たな関心を呼び起こしたことは喜ばしいことです。
提案書はまさに国際協力のもとで取り組んでいったものですが、コロナ感染対策の制約により、全ての作業はリモートで行われ、提案書の作成作業だけでなく、加速器ワーキンググループによる技術的な話し合いからIDT執行部の提案書に関する企画・編集会議まで全てがオンラインで行われました。オンラインで行うことにはメリット・デメリットがあります。移動が少ないので遠隔での会議がしやすいのですが、参加者間の時差があるので、会議の時間はかなり制限されます。また、提案書の完成には、国際設計チーム(Global Design Effort)が技術設計書(Technical Design Report: TDR)のために蓄積してきた知見や、彼らのグローバルなネットワークが活かされていることも特筆すべき点です。
準備研究所の目的は現在のILC加速器の技術設計とサイト設計を工学レベルまで進め、ILC建設開始に備えることです。それによって、政府間でのコスト分担や責任に関する協議に重要な、信頼できるコスト見積やプロジェクトの実現評価を提供することが出来ます。しかし、現時点では、日本政府はILC誘致に関心を示し準備研究所への支持を表明するためには、国際的な費用負担をある程度明確にする必要があるとの立場を維持しています。
準備研究所の提案書が完成し、IDT、特に執行部では、この提案を実行に移そうとしています。提案には「物理学コミュニティ、研究機関、政府から生じる要件を取り入れるため、その実施に向け、精緻化、修正、調整が導入されるべきである」と記されています。これはまさに、上記のような状況に直面した私たちが、今やっていることです。日本の研究者たちは、政府を前向きな方向に向かわせるために懸命に働いており、我々は様々な研究機関と、彼らの努力をどのように支援するかを議論しているところです。
ICFAは2021年末までにIDTの作業を完了することを指示していることから、ICFAは来る3月の会合でILCとIDT作業の状況を評価し、今後の進め方を決定する必要があります。その際、ILCの新しいコミュニティ組織、議員連盟の活動、文部科学省のILC有識者会議の検討結果など、日本での動きが非常に重要になります。同様に、ヒッグスファクトリーの選択肢としてリニアコライダーを残すかどうかも重要な論点となるでしょう。e+e- ヒッグス ファクトリーが次の高エネルギー物理学のプロジェクトであるべきだというコミュニティのコンセンサスが存在する一方で、どの ヒッグスファクトリーがそうであるかという結論は出ていません。既に各ヒッグスファクトリーに対して地域的な努力がなされていますが、今こそICFAがヒッグス ファクトリー実現のためのグローバル戦略を議論する時ではないでしょうか。ILC加速器開発を現在の技術設計から工学設計の段階へ進めるための更なる努力は、この議論の中で判断されるべきでしょう。
今後、ICFAの議論に必要な情報を提供するために、準備研究所実施に向けたアイデアを模索し、発展させていきます。この取り組みには、もちろんコミュニティのサポートと前向きな意見が不可欠であり、我々はそれを頼りにしています。
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