次世代のビッグ・サイエンスの役割 佐藤文隆氏インタビュー

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ILC通信15.indd佐藤文隆京都大学名誉教授は、日本を代表する理論物理学者の1人であり、国際宇宙ステーション(ISS)や国際熱核融合実験炉(ITER)といった日本の関わる国際プロジェクトのアドバイザーもつとめて来られました。佐藤教授は、専門的な研究に加え、幅広い人々を物理学の世界へと誘う多数の書籍を執筆されています。

 

佐藤教授は自らを『俗人学者』と呼んでいます。「私が本を書き始めた1970年前半は、『専門家は、専門家からの評価を受けていればよい』、という風潮が一般的でした。今ではいろいろな学者がマスコミに出るようになりましたね。時代は変わりました。私が本を書き始めた1970年の前半は、学者がマスコミに出るなんてことは、恥ずべきことだと思われていたのです」
「最近は、メディアにたくさん科学者が登場していますね。時代がやっと私に追いついたのです」佐藤教授は、科学コミュニティの担う使命の1つは、社会とコミュニケーションを行い、人が普遍的に持っている新しい知識への欲求を満たすことだと考えています。ISSやITERのプロジェクトに関する提言を行った際にも、コミュニケーションの重要性について意見を述べました。「国際リニアコライダー(ILC)も同じことだと思いますよ」と、佐藤教授は語ります。科学者が社会に対してできることは、できるだけ多くの「知るきっかけ」を提供することです。特に、今後の社会を担う若い世代に向けての情報発信が大切だと、佐藤氏は考えています。

 

「例えば、必ずしも、若者を特定の分野に誘導してくる、なんて狭いことは考えなくてもよいのです。世の中には、まだまだ自分の知らない世界がある、ということを紹介することに意味があります。また、日常的には想像していないような仕事をしている人がいることを紹介して、新しいチャレンジの仕方を提起していくことも重要です」佐藤教授は、科学者が自分達の研究が社会に及ぼす影響に対してもっと敏感であるべきだと考えています。それは単に、学問的、経済的に利益を及ぼすだけではなく、人々の創作意欲をかき立て、人々を勇気づける、といった精神的な面でも影響力があるのです。そこでキーワードになるのが「国際」であると、佐藤氏は言います。

 

20世紀の『ビッグ・サイエンス』は、各国間の競争で進歩してきました。20世紀後半から21世紀にかけて、その流れはISSやITERなどに代表されるように、国際協力が主流になっています。誰もが簡単に海外に行けるようになった今日、「国際」は特別なキーワードではないように思えますが、佐藤氏は真の国際化はまだ来ていないと言います。「私たちには、刺激的な人生を送る方法を示すロールモデルが必要です。その意味では、ILCは良い例となるでしょう」と、彼は言います。

 

ILCのようなビッグ・サイエンス・プロジェクトには、世界中のたくさんの人々が参加しています。「ILCコミュニティは、まさに「国際的」に働いている若い研究者の活動を、もっと社会に向けて紹介していくべきだと思います。ビッグ・サイエンスは、人の営みで成り立っています。ILCのような、これからのビッグ・サイエンスは、たくさんの人が泣いたり、笑ったり、喧嘩をしたりして、大きな目的を実現するために努力する過程です。もし、私たちが科学の不思議や感動を共有することができれば、国際協力の精神を世界で分かち合うことができるでしょう」

 

※この記事は、ILCNewsLine2007年6月21号に掲載された記事(http://www.linearcollider.org/newsline/readmore_20070621_atw.html)に基づき、加筆・修正したものです。