ILC 元年へ~鈴木厚人機構長インタビュー~

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インタビューにこたえる、鈴木厚人KEK機構長

昨年末、2014 度政府予算案が閣議決定され、国際リニアコライダー(ILC)計画に関する調査検討費5 千万円が計上された。ILCと明示された国家予算が措置されたのは初のことになる。ILC 計画の本格化が期待される2014 年。今年のILC はどうなるのか、鈴木厚人高エネルギー加速器研究機構(KEK) 機構長に聞いた。

昨年10 月、鈴木氏は駒宮幸男高エネルギー研究者会議議長と、山下了ILC 戦略会議議長とともに、文科大臣宛にILC 日本誘致の要望書を提出。ILC の建設が現実的であることを示す技術設計報告書、日本国内に立地することが可能であることを示す地質調査報告書、そして国際研究所の体制案とともに要望書を提出し、受理された。これに伴い、KEKは「ILC推進準備室」を発足した。

「KEK はこれまで、ILC の研究開発を推進してきました。ILCの調査費も計上され、これからは技術のみならず、研究所の在り方や運営方法等の検討も本格化させなければなりません。それには『プロジェクト』としてILC を推進する機動部隊が必要となります。その役割を担うのがILC 推進準備室です」と、同室長を兼任する鈴木氏は言う。「まずはKEK 内の組織として始めますが、近い将来、国内のILC 関連研究者が全員参加する組織へと変えて行く必要があります。ILC は国際プロジェクトですから、最終的にはそれを国際ラボに進化させていく予定です」(鈴木氏)。

先端加速器科学技術推進協議会(AAA) を中心に行われて来た産学官連携の活動も、深化させることになる。文部科学省は年明けにも約10 人で構成する有識者会議を設置し、日本学術会議から指摘された詳細な経費算定や研究者らの必要数や確保の見通し、国際的な経費分担などの課題について検討を始める。

「2014 年は次フェーズへの出発点、つまり『ILC 元年』と言ってよいと思っています」と鈴木氏。今後2、3 年かけて、加速器の詳細設計と、国際研究所を日本に建設し、運営して行くために必要となる諸課題の検討を行って行く予定だ。

世界各国からの、日本における動きに注目が集まっている。欧州では、昨年更新された素粒子物理学の長期戦略の中で、日本がILC計画を主導することと、日本がILC に関する何らかの声明を出すことへの期待が明示されている。また、米国やアジアの科学者からも同様のメッセージが出されている。

「科学者としても、ILC が国際プロジェクトとして認められるように、経済協力開発機構(OECD)などへの働きかけを行う等、できるだけ早く国際交渉に入れるような基盤作りに注力していきたいと考えています」と鈴木氏。政府でも文部科学省を中心に、国際協力関係をいかに構築していくかについて検討が始まっている。2014 年のILC 計画の進捗に期待したい。