加速器図鑑:四極磁石

コラム

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ビームが走る時に広がって 飛び散ってしまわないように、四極磁石は加速器の中で数多く使われて います。またILC では最後にビームをギュッと絞って6 ナノメートル*1 の大きさにする長さ2.2km の最終収束システムの中にも多くの四極磁石 が使われています。ILC では合計3500 台もの四極磁石が使われます。

上の写真が四極磁石です。丸く出っ張った部分が中心に向かって4つ 飛び出しているのが「極」です。地球は北極にS 極と南極にN 極を持つ 二極磁石であることはよく知られています。子供の頃に遊んだ棒磁石や U字磁石もN 極とS 極を持つ二極磁石です。写真の磁石は、N 極、S 極、 N 極、S 極、と4つの極を持っているので四極磁石と呼ばれます。

ビームはこの四極磁石の4つの極のちょうど真ん中を通ります。電子 ビームが紙面の裏から表に通るとしましょう。ビームにはある程度の太 さがありますから、ちょうど真ん中を通る電子もあれば、やや右側通る 電子、やや左側を通る電子など、ビームの中の個々の電子はいろいろな ところを通ります。電子の動きはつまり電流です。電流は磁場から力を 受けます。ここで注目して欲しいのは右側では上がN 極で下がS 極、左 側では上がS 極で下がN 極、と磁場の向きが左右で逆になっている事で す。右側を通る電子は磁場から力を受けて左側に曲がります*2。反対に 左側を通る電子は磁場から力を受けて右側に曲がります。ちょうど真ん 中では左右の磁場が打ち消し合って、磁場はありません。だからちょう ど真ん中を通る電子は力を受けません。(イラスト参照)このようにして 広がった電子ビームが「収束」の力を受けます。

ところでビームは左右だけでなく上下にも広がっています。同じよう に電子に働く力を考察すると上側を通る電子は上向きに、下側を通る電 子は下向きに力を受ける事がわかります。つまりこの四極磁石は上下方 向にはビームを「発散」させる力をもちます。これは困ったことです。 実際の加速器ではもう一つの四極磁石を下流におきます。この四極磁石 の極のN/S は左右方向は「発散」、上下方向は「収束」になるようにし ます。このように組み合わせて全体として左右方向にも上下方向にも「収 束」する力を生み出します。

*1) 1 ナノメートルは 100 万分の1 ミリメートル。
*2) もしよければ中学で学んだフレミングの左手の法則を思い出して曲がる 向きを確かめてみて下さい。電子は負の電荷を持っているので電子の走 る向きと電流の向きは逆である事に注意してください。