ILC 設計から実現へ

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2013 年6 月に「技術設計報告書」が出版され、国際リニアコライダー(ILC)計画はその実現に向けたフェーズへと移行した。技術設計報告書の発行をもって、それまでILC 加速器の設計 を進めて来た国際組織「国際共同設計チーム(Global DesignEffort : GDE)」はその任務を終え活動を終了。建設実現に向けた活動を行う新組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」に引き継がれた。現在、より詳細な加速器の設計やコスト見積もりの精査が進んでいる。

2013 年8 月には、国内研究者によって岩手県と宮城県をまたぐ北上山地が建設適地と評価され、日本におけるILC 実現に世界の研究者から期待が高まっている。欧州では、2013 年5 月、最新の欧州全体の素粒子物理学の推進計画(欧州戦略)が欧州合同原子核研究機関(CERN)理事会からの承認を受けた。ここには、ILC の日本における取組みへの歓迎の意と、欧州研究者の参加の意思が示されている。

米国では、エネルギー省の諮問機関「P5 部会」が素粒子物理学プロジェクトの優先順位付けを5 月までにまとめる予定だ。このP5 部会に情報提供を行う、米国物理学協会の素粒子物理学部門の会議(通称「スノーマス会議」)でも、欧州戦略同様に、日本におけるILC の取組みについてポジティブなメッセージが発信されている。今年1 月には、リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟(河村建夫会長)から、小坂憲次議連副会長の訪米の際に大統領府等へレターが手交され、ILC における国際協力の重要性を共有した。下村博文文部科学大臣が訪米時に、モーニッツ米エネルギー省長官とILC について議論したことが文科大臣のフェイスブックページに掲載されており、各方面でのハイレベルの議論が始まっている。

今年2 月には、世界の加速器研究所の長で構成される組織「将来加速器国際委員会(ICFA)」が、「国際研究コミュニティによる日本におけるILC 実現にむけた取組みが素晴らしい進捗を遂げていることを歓迎する。ICFA はILC 建設のための世界の技術能力の評価を行う」との声明を発表した。これに伴い、ICFA のもとには、新たにILC の国際研究所の組織や運営等について検討する委員会が設置されている。

アジアでもILC に関する動きが活発化している。インドは、エネルギー利用を視野に入れたILC 技術協力に高い関心があり、ILC 計画への参加を強く希望している。中国の科学者は、ILC 建設費の5%の拠出が出来るよう、政府に要請することを表明している。

5 月8 日、ILC を日本に誘致した場合の課題などについて検討する有識者会議が初会合を開いた。この有識者会議は、文部科学省内のILC タスクフォ―スの下に設置されたもので、来年度を 目処に報告書がまとめられる予定だ。

設計から実現へ、ILC 計画は着実に歩を進めている。