バリー・バリッシュ博士、2017年ノーベル物理学賞おめでとうございます!バリッシュ氏は、2005年から2012年まで国際リニアコライダーの国際共同設計チームを率いて、技術設計報告書の完成を牽引しました。関係者一同、心からお祝い申し上げます。
本記事は、ILCニュースライン2016年2月11日に、バリッシュ氏から寄稿いただいた記事の日本語訳になります。原文はこちらをご覧ください。
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2005年に国際リニアコライダー(ILC)国際共同設計チーム(Global Design Effort:GDE)のディレクターに就任する10年以上前、私はLIGOプロジェクトのディレクターの任務を引き受けた。ILCと同様に、LIGOは素晴らしい研究成果を出すポテンシャルを持つ、とてつもなくチャレンジングなプロジェクトだった。
当然のように、LIGOに対する批判があり、人々はこう言った:科学成果は保証されていないし、このプロジェクトは難しすぎる。それにコストがかかりすぎる。
しかし、全米科学財団と、このプロジェクトを主導する2つの大学、カリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学からの揺るぎないサポートのもと、私たちは粘り強く主張を続けた。
私たちが提案したのは、LIGOを2段階に進める計画だ。まず、初期LIGOは実証済みの技術を用いて、重力波の検出が「ことによると可能」な感度で設計を行い、第二期の高度LIGOでは、より先端的な技術を用いて感度を大幅に改善し、重力波の検出が「おそらく可能」のレベルまで上げようというものであった。初期LIGOを完成させ、データの取得や限界設定の段階に入っていた2005年、私はILCの国際的な設計活動の指揮を依頼された。私は、高度LIGOへのアップグレードまでの期間、ILCの技術設計報告書を作り上げる任務を引き受けることにした。重力波検出限界値の大幅な向上目標を設定したため、私はGDEの任期中も、パートタイムでLIGOプロジェクトには関わり続けていた。重力波の検出に成功していなかったにも関わらず、全米科学財団は、高度LIGOへの高度化計画という私たちの大望を支援してくれた。
ILC技術設計報告書が完成した後、私は再びLIGOでの仕事に集中した。昨年(2015年)に高度LIGOは成功裏に稼働を開始し、9月からデータの取得を始めた。9月14日、3000キロメートル離れた2つの干渉計が同時に、見事な「発見」の事象を記録したのだ。数ヶ月に渡る詳細な分析、バックグラウンド研究、そして理論的な検証を行った後、私たちは「フィジカル・レビュー・レターズ」に論文を提出した。その論文は査読を受け、受理されて公開されている。
「GW150914」と呼んでいるこの事象は、アインシュタインが100年以上前に予言した重力波を、初めて直接検出したものになる。私たちが検出したものは一体なんなのか? 分析の結果、検出された重力波は、太陽の30倍もの質量を持つ2つのブラックホールが合体して1つのブラックホールが作られた際に放出されたものだと結論づけられた。これまでに、これほど大きなブラックホールが観測されたことは無く、2つのブラックホールの合体に至っては、全く初めての観測であった。このように重たいブラックホールの形成の説明や、「ブラックホール連星」というものが本当に存在し、これらが合体してより大きなブラックホールとなることなど、この一つの観測によって、私たちは宇宙物理学の新たな洞察を得ることになった。さらに、この事象は「強い重力場」の理論を新たに検証することを可能にし、アインシュタインの一般相対性理論の予測と見事に一致したのである。
この発見は非常にエキサイティングで、今後継続的にデータを取得し、LIGOの感度を上げていくことで、私たちは宇宙の理解の新たな窓を効率的に開いていくことだろう。私は、ILCが同様のエキサイティングな道を辿ることを願い、信じている。ILCもLIGOと同様に、反対する人々がいて、技術的な課題があり、大きなコストがかかる。しかし、偉大な実験科学は偉大なアイデアから生まれるものだ。必要なのは、不屈の努力と忍耐、支援そして少しの幸運なのかもしれない。