世界のILCコミュニティ、オンラインで会合開催(AWLC2020)

ILC ニュースライン

 *この記事は、2020年12月24日に発行されたILCニュースラインの翻訳記事です。

10月19日~22日、世界中の研究者らがオンラインで開催された米国リニアコライダーワークショップ(AWLC2020)に集まりました。500名以上の参加登録があり、2022年の準備研究所(プレラボ)設立に向けた準備を行うため、国際将来加速器委員会(ICFA)により設立された国際推進チーム(IDT)の動向を含めたILCの現況に関するトークセッションや議論に参加しました。

4日間にわたる全体会議はSLAC研究所の高季昌所長のウェルカムスピーチで始まりました。最初のセッションではナザニエル・クレイグ氏がILC物理の概要を説明し、参加者にあらためてILCの精密物理プログラムで対処すべき以下の課題に言及し、ILCなら独自の答えを打ち出すことが出来ると主張しました。

  1. ヒッグス粒子は素粒子なのか、それとも複合粒子か
  2. ヒッグス粒子は自らに作用するのか
  3. ヒッグス粒子は湯川力※(ヒッグス場と物質粒子の間で働く力)を媒介しているか
  4. 電弱対称性はなぜ破れたのか
  5. 電弱対称性はどのように破れたのか

※湯川力:湯川博士が核力を説明するために導入した中間子による力と同じ数学的な性質をもつため、「湯川力」と呼ばれる

この動機付けの概要に続いて、初日はIDTリーダーの中田達也氏(議長)、アンディ・ランクフォード氏(米州代表)、スタイナー・スタップネス氏(欧州代表)による講演、および、山内正則KEK機構長によるKEKの視点からの報告が行われました。中田氏はIDTの目標、プレラボと建設開始に向けたタイムライン及びILC研究所開始までの物理・測定器の段階についてIDTの考えを述べました。ランクフォード氏は米国におけるILCプレラボ活動計画について説明し、スタップネス氏はILCプレラボへの参加に向けた欧州の計画の概要を伝えました。続く山内機構長はKEKにおける研究開発と日本国内の政治的進展について報告し、最近の米国政府代表による前向きな発言がとても重要であることを強調しました。マイケル・ペスキン氏はスノーマス・プロセスと今後予定されている米国エネルギー省と全米科学財団(NSF)が合同で諮問する素粒子物理学プロジェクト優先順位決定委員会(P5)の概要について報告しました。また、アラン・ベルリーヴ氏とマリア・ロサダ氏は、それぞれカナダとラテンアメリカにおける状況を紹介しました。初日のプログラムは、2日目、3日目、4日目に行われた、詳細な発表と議論の土台となりました。

クレイグ氏の概要説明によって刺激を受け、午前中の物理分科会も盛り上がりました。ILCにおけるダークセクター粒子の可能性や、コライダーや固定標的モードにおけるダークセクター粒子の発見、精度計算に関する発表や、物理・測定器のシミュレーションに関するチュートリアルなどが行われました。

会議2日目は、ILC加速器の設計やコンポーネントの開発状況について一連の分科会と全体会議が行われました。道園真一郎教授は火曜日の全体会議の冒頭で、250ギガ電子ボルトの様々な概要を説明し、設計の成熟度を強調するとともに、コスト削減や高加速勾配などの技術目標の達成に向けて大きな進展があったことを述べました。超伝導空洞の新しい処理により、高い品質係数を維持しながら、1メートルあたり50メガボルトという高い勾配が得られることが示されました。その他、陽電子源やビームダンプなどは更なる設計開発が必要です。

プレラボ段階における準備にむけて、IDT-ワークンググループ2では超伝導RF、ダンピングリング/ビーム配送/ビームダンプ、ソース、土木、これら4つのサブグループが編成されました。プレラボ期間中は、これらのサブグループの活動が技術的な準備、最終技術設計、成果物の準備と計画、土木および基盤設計の仕様の基礎となります。火曜日の午後の全体会議では、ILCの重要な要素を開発する活動として、土木(KEK/照沼信浩教授)、欧州SRF活動(CEA/オリビエ・ナポリ氏、米州SRF活動(フェルミ研究所/サム・ポーセン氏)、LCLS-Ⅱ(SLAC/マーク・ロス氏)、ILC加速器へのカナダの貢献の可能性(TRIUMF/オリバー・ケスター氏)の発表が行われました。

火曜、水曜、木曜の午前中に行われたILC加速器に関する分科会では、ILC技術に関する準備に貢献することに関心のある国や研究機関に関する予備的な議論が行われました。特に、全ての地域で、様々な用途向けの超伝導RF空洞およびクライオモデジュールの製造に関連した活動が活発に行われており、将来のILC製造性能に非常に前向きな見通しを与えています。

水曜日には、マーカス・クルート氏(マサチューセッツ工科大学)が測定器技術に関する一連の全体会議について紹介し、ILCの実験環境、バックグラウンド、それらを基にした測定器の必要事項などを検討しました。現存の2つの測定器設計(ILD、SiD)を紹介し、その性能についてレビューが行われました。そのあとに、トラッキングのオプションについて、タイム・プロジェクション・チェンバー(時間射影チェンバー、TPC)に関してはヨヘン・カミンスキ氏(ボン大学)から、シリコンについてはカテリーナ・ベルニエリ氏とマイケル・ケイガン氏(ともにSLAC研究所)がそれぞれ発表しました。熱量測定については、フランソワ・コリボー氏(マギル大学)が粒子の流れについて、サラ・エノー氏(メリーランド大学)が全測定器型二重読み出しについて発表しました。また、前方測定器についてはイタマル・レヴィ氏(テル・アビヴ大学)から、ソフトウェア&コンピューティングについてはジャン・ストゥルーブ氏(パシフィック・ノースウエスト国立研究所)から発表がありました。各発表では技術的な要件、特に、新しいアイディア、新たな技術、代替的なアプローチに向けた機会について言及しました。

水曜日に行われた測定器の全体会議はILCの物理・測定器、加速器における早期キャリアの可能性についての活発なパネルディスカッションで締めくくられました。スノーマス2021早期キャリアコミュニティから多くの若手研究者が招かれ、彼らから質問や懸念が寄せらせました。ディスカッションでは雇用の見通し、ILC研究に従事する方法、代理サポートや長期キャリアパスについて議論があり、その中で若手研究者の参加がILCコミュニティ発展には重要であり、また、今後の若手研究者支援が発展に向けたプロセスになることが共通して表明され、同意されました。

3日間にわたりILC全体にかかる発表が行われ、最終日となる木曜日の全体会議はIDT-ワークンググループ3(物理・測定器)の座長を務める村山斉氏によるILCの物理にかかる機会に関する発表から始まりました。村山氏はヒッグス粒子の精密測定を目指すILCの初期の物理動機についてレビューしました。また、このプログラムがヒッグス粒子を理解するための重要な指標を生み出す可能性があることを参加者に想起させ、月曜日にナサニエル・クレイグ氏による指摘を強調しました。さらに、研究が必要な固定標的やビームダンプ実験により可能となるダークセクターの探査など、プロジェクトの幅広い可能性についても言及しました。

木曜日のプログラムは、ILC建設に必要な最終研究開発及びエンジニアリングに向けた準備を含む測定器に必要な時間についてフランク・サイモン氏(マックス・プランク物理学研究所)が中心となり、有益な議論が行われました。議論の中で、測定器は加速器のペースを維持するためのリソースを見つけるべきと強調されました。

AWLC2020のプログラムにおいて重要な要素は、米国政府代表としてクリス・フォール局長(米国エネルギー省科学局)、サウル・ゴンザレス氏(米国国立科学財団)、およびリース・スミス科学技術協力担当ディレクター(米国国務省)による講演でした。講演の中で3氏より、ILC計画においてそれぞれの機関が日本と連携することへの関心を示し、そのような連携の枠組みに関する重要な指針をについて述べました。続いて、ポール・グラニス氏(NY州立大学)が著名な有識者を率いて、ILC計画におけるアメリカ州の参加に関する様々な側面について議論が行われました。 パネルには、ジム・シーグリスト氏(米国エネルギー省)、ナイジェル・ロキア所長(フェルミ研究所)、ジョアンヌ・ヒューイット氏(SLAC研究所)、スチュアート・ヘンダーソン所長(ジェファーソン国立加速器施設)、ドゥミトリ・デニソフ氏(ブルックヘブン国立研究所)、アンディ・ランクフォード氏(IDT)、村山斉氏(IDT)、アラン・ベルリーヴ氏(カールトン大学)およびアンディ・ホワイト氏(テキサス大学アーリントン校)が参加し、アメリカ州のILCへの参加度合、測定器戦略、アメリカ州による貢献の可能性のある分野、IDTの課題、米国予算における新たな資金提供の可能性、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)参加からの教訓、カナダとラテンアメリカの参加、若手研究者の動機付け、ILCによるFCC参加への影響に関して、ポール・グラニス氏が投げかけた質問に答えました。

本会合は国際将来加速器委員会(ICFA)委員長のジェフリー・テイラー氏(メルボルン大学)の発表で締めくくられました。ジェフリー・テイラー氏は、国際共同設計チーム(GDE)、リニアコライダー・コラボレーション(LCC)、そして現在新たにKEKでプレラボ準備研究所立ち上げ準備を行う国際推進チーム(IDT)と繋がる、この重要な瞬間に私たちを導いてきた道のりについてレビューしました。素粒子物理学という分野のグローバルな性質を強調し、素粒子物理学の進歩に不可欠であると世界的に認められてきた施設への長年の期待を実感し、今こそILCにふさわしい時期であることを再認識させてくれました。

プログラム実施においては、グレナ・ペイジ氏と現地委員会委員長のマイケル・ペスキン博士の優れたサポートを含むSLAC研究所の支援があってこそ可能となりました。会議の計画は、優れたプログラム委員会と国際諮問委員会からの恩恵を受けました。全体会議と分科会はアーカイヴされており、AWLCのウェブページからアクセスすることが出来ます。

本会合では、ILCの重要性とその実現に貢献する機会について紹介するだけではなく、優れた概要を提供しました。コミュニティはプレラボの段階から始まるILCの実現に向けて、新たな熱意を持って臨むことが出来ました。

英語原文