ILC実現に向けたプレラボの準備

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*この記事は、CERN Courier2020年11月/12月号に掲載された記事の翻訳記事です。

2020年9月10日、国際将来加速器委員会(ICFA)は日本にて国際リニアコライダー準備研究所(プレラボ)立ち上げ準備のための新たな組織の構成、メンバーを発表した。ILC国際推進チーム(ILC-IDT)は執行部及びプレラボ組織設計、加速器、物理・測定器の3つのワーキンググループで構成され、1年半程度の期間でプレラボの準備段階を完了させることを目指している。

「日本のコミュニティの努力が日本政府の前向きな動きにつながることを願っている」 中田達也

プレラボの目的はILCプロジェクトが承認された場合に、建設に向けた準備をすることである。「政府間合意ではなく、参加する国立研究所や地域研究機関の覚書に基づく」とILC-IDT執行部議長を務める、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の中田達也氏は云う。「ILC-IDTは日本のKEKがホスト機関となるプレラボの組織や運転の枠組みの提案に向けて検討を行っている。」「我々の活動に平行して、日本のコミュニティの努力がプレラボ設立に不可欠な要素である日本政府の前向きな動きに繋がることを願っている。」

ICFAのもと、世界的な共同プロジェクトとして電子・陽電子リニアコライダー及び測定器の推進を行うため2013年に設立されたリニアコライダー国際推進委員会およびリニアコライダー・コラボレーションはICFAがILC-IDT設立を決定したことを受けて6月にその任期を終えた。

ILCは20年近く前から台頭してきたプロジェクトだ。2012年にヒッグス粒子発見後まもなく、日本高エネルギー物理学研究者コミュニティは推定70億ドルのプロジェクトをホストすると提案し、当時の野田佳彦首相は国際的な枠組みを構築することが重要であると強調した。2018年ICFAは、ILC技術設計提案書(TDR)で5年前に設定した半分のエネルギーである、250GeV重心系エネルギーで運用するヒッグスファクトリ―としてILCを支持した。

ヒッグスファクトリー

2020欧州素粒子戦略アップデート(欧州戦略)では、電子・陽電子ヒッグスファクトリーが、最も優先度の高い次のコライダーであると結論づけられた。欧州戦略では、欧州とその国際パートナーは協力して、第一段階として、電子・陽電子ヒッグスファクトリーを備えたエネルギーを持つ、CERN将来ハドロンコライダーの実現可能性を探ることを勧告。日本におけるILCのタイムリーな実現は、“この戦略に適合する”とした。さらに2つのヒッグスファクトリ―の提案がある。CERNのコンパクトリニアコライダー(CLIC)と中国の円形電子・陽電子衝突型加速器(CEPC)だ。ILCが最も技術的に準備の整ったヒッグスファクトリ―の提案だが、研究者はその将来に関する具体的な決定を待っている状態である。

2019年3月、日本の文科省はILCへの「継続的な関心」を表明したが、正式な学術的意思決定プロセスでのさらなる議論が必要だと主張し、ILCを「誘致する表明には至らない」と発表した。同年2月、KEKは文科省の大型研究計画のロードマップ2020にILCの検討を申請したが翌月には申請を取り下げ、ILC国際推進チーム設立に伴い、9月に取り下げに係る一連の動きを発表した。

「文科省はこれからも国際研究者コミュニティによる議論を注視する。」 萩生田光一文科大臣

萩生田光一文科大臣は9月11日の記者会見にて、「文科省は欧米の政府機関との意見交換を続け、これからも国際研究者コミュニティによる議論を注視する。」と述べた。

ILC-IDT執行部の欧州代表を務めるCERNのスタイナー・スタップネス氏は、日本政府の明確な支持がILCプレラボには重要であると云う。「プロジェクト全体の規模は通常のプロセスで検討される科学プロジェクトの規模よりはるかに大きく、文科省の大型研究への通常予算の中でカバーできるとは考えにくい。」と話す。「プレラボの段階で、ILC建設に係る費用や責任に関する政府間での議論や交渉が行われ、うまくいけば収束することが必要だ。」

英語原文