*この記事は、2020年12月24日に発行されたILCニュースラインの翻訳記事です。
村山斉氏が、皆さんがこれまで夢見てきた実験について、幅広いコミュニティから提案されることを求めています。
電子・陽電子ヒッグスファクトリが次の最優先コライダーであり、国際リニアコライダーは十分成熟し、ヒッグスファクトリとして準備万端であることは国際的に認識されています。しかし、ILCはヒッグスファクトリだけではなく、よりはるかに多くのことが出来ますし、そうすべきです。
ILCは多様な目的をもったマシンとして、提供できる様々な研究の可能性についてはすでに議論されてきました。最近ではさらに多くの可能性が提案されています。ビームダンプ実験、抽出されたビームをもちいる固定標的実験、そして衝突点にある測定器の近傍での実験などを行うことが出来ます。直線設計は加速器を拡張すること、あるいは新たな加速器技術の導入によりエネルギー拡張を可能にします。このような様々な研究の可能性に関する研究はこれまであまり行われていません。この記事は幅広い素粒子物理(おそらく原子核及び物性分野も)のコミュニティに対して、電子陽電子ヒッグスファクトリを超えたILC施設の可能性を最大限に引き出す方法を考えるよう呼びかけるものです。
“ILC++”は、私が米国リニアコライダーワークショップ(AWLC2020)で行った講演のタイトルで、そこでヒッグスファクトリを超える物理の可能性についての最初の議論を始めました。ILCは高エネルギー、高インテンシティ、高品質な電子陽電子ビームを備えたパワフルな施設になります。円形マシンとは異なり、衝突のたびにビームを廃棄し、その結果、毎年10の21乗個オーダーの高エネルギー電子を捨てることになります。これら衝突後のビームも利用してみるのはどうでしょう。同様の実験としてCERNのSHiP実験では、暗黒光子やアクシオンのような比較的軽く弱い結合を持つ粒子を探索しています。
衝突点の近傍においては、ビーム方向に(LHCでの例:FASER実験)、あるいはビーム方向から離れて(LHCでの例:MATHULSA実験)長寿命の粒子を探すことができます。主線形加速器のベースライン設計においては“Light Dark Matter eXperiment”のような固定標的実験のためのビーム抽出ポイントが多数あります。明らかにビームエネルギーはLHCのビームほど高くありませんが、いくつかの新物理は主に電子と光子に結合している(いわゆるレプトフィリック模型である)可能性があります。追加でのトンネル掘削は、メイントンネルと同時進行で行えば最小限の追加費用で済みますが、後になってからはかなりの費用がかかるでしょう。もし私たちがこのような機会を活用したいのであれば、土木設計が完成する前に計画を立てるべきです。FASERのような測定器のコストは100万ドルくらいします。今こそ常識にとらわれずに考える時です。
エネルギー拡張はますます期待出来そうです。ILCは1TeVまで拡張可能なように設計されています。ILCベースラインの加速勾配である35メガボルト/メートル(MV/m)と比較しても、すでに窒素インフュージョン処理を施した加速空洞では45 MV/mまでの改善に大きな期待が寄せられています。Low-Surface Field空洞と呼ばれる新しい形状の空洞は50 MV/mに達しています。ニオブ錫合金Nb3Snは原理的に120 MV/mまでの加速勾配が可能であり、同じILCトンネル内で3-4TeVに至る拡張が可能です。加速器全体を、すでにかなり成熟したコライダー技術を持つCLICに置き換えたら、3TeVはすでに見えています。将来のプラズマ加速器や誘導体レーザー加速器は30TeVまで引き上げるかもしれません。
私たちは2021年に2つの国際会議(ワークショップ)を計画しています。最初のワークショップは毎年開催しているLCWSで、欧州コミュニティ主催で3月か4月前半に行われます。(訳注:3月15日~19日オンライン開催) もう一つは、コライダー、ビームダンプ設計、固定標的実験、衝突点測定器の近傍での研究、そして準備研究所が立ち上がった際に「関心表明」につながる新技術など、ILC実験のための専用ワークショップです。多くの方が参加してくれることを願っています。
ILCは長期にわたる汎用性の高い施設になるでしょう。新しいアイディアを歓迎します!