ILC国際推進チームが挑む新たなタスク

ILC ニュースライン

※この記事は、2022年8月17日発行のILCニュースラインに掲載された、中田達也IDT議長のディレクタースコーナーの翻訳です。

2020年8月に国際将来加速器委員会(ICFA)が創設したILC国際推進チーム(IDT)はこれまで、ILC準備研究所(Pre-lab)設置にむけた提案書の作成、将来のILCのさまざまな可能性を議論する国際会議(ILCX2021)の開催、加速器、物理・測定器のワーキンググループの定例会議等の活動を行なってきました。

この間、文部科学省は、ILCに関して、本体への国際的な貢献の見通しが立たなければ、準備研究所の設置を支持できないという立場を表明しました。また、今年2月に発表されたILC有識者会議の報告書でも、ILCのプロジェクトの状況や必要なコストを勘案すると、準備研究所に向けてプロジェクトを進めるのは時期尚早との結論が出されています。有識者会議は一方で、加速器の研究開発を継続し、この分野の国際的な進展状況を踏まえ、国際的な文脈でILCのロードマップを見直すことを提言しています。

2022年3月に開催された直近のICFAの会合では、現在のILCをめぐる状況を幅広く検討した結果「ICFAは、国際推進チーム(IDT)の枠組みで、日本でILCをさらに進展させ実現させることを目指したグローバルな研究者コミュニティの活動の調整に、来年にかけて引き続き取り組む」との決定が下されました。 この声明を受けて、IDTは新たな段階に入ることとなり、以下にあげる2つの主要タスクに取り組んでいきます。

第1のタスクは、新たな枠組みとなる「ILCテクノロジー・ネットワーク」を立ち上げ、工学設計に向けて選定されたILC関連技術の開発を促進するとともに、加速器の多角的応用の可能性の検討を行うことです。このタスクについては、ワーキンググループ2が作業プログラムを策定しました。このプログラムは、ILC準備研究所提案書に記載されたワークパッケージに基づき、技術的に重要な項目、および開発に時間を要する項目に重点を置いたものとなっています。この「ILCテクノロジー・ネットワーク」は、KEKと世界の関連研究所間の協力協定に基づいて構築することを想定しています。KEKは文部科学省に対して、2023年度から、その実施のために財政的支援をかなりの程度増やしてほしいと求めています。IDTは現在、作業プログラムの各項目と、世界の研究所の関心や専門性をマッチングさせることで、共同研究協定の締結が円滑に進むようサポートを行なっています。実作業は協定の枠組みで行われますが、「ILCテクノロジー・ネットワーク」の中心的な調整はIDTが行うことになります。

二つ目のタスクは、国際的な議論の進展に向けた働きかけを行うことです。IDT は、ILC プロジェクトへの国際貢献の見通しが立っていないという現状は「国際プロジェクトをどのように進めるべきか」という課題に関して、パートナー候補間の認識が相違していることに起因していると考えています。ここで注目すべきことは、これまでの大規模な加速器インフラはどれも、グローバルなプロジェクトで建設されたものでは無い、ということです。ILCが、最初から国際プロジェクトとしての推進を目指した、初のプロジェクトなのです。IDTは、パートナー間の認識の違いに対処するため、国際有識者会議を設置しました。このパネルは、政府当局やコミュニティと密接な関係を持つ、世界のシニア研究者で構成されており、最初のステップとして、ILCやその他のプロジェクトにも適用可能な、国際加速器プロジェクトの全体的なプロセスに関する議論を行います。議論の結論は、拡大会議を行ない、政府当局と共有することを計画しています。

国際加速器プロジェクトの設立プロセスに関する共通の理解が得られた後に、パネルは、そのプロセスをILCに適用するための議論に進むことを考えています。IDTでは、この作業を通じて、ILCに関する政府間の建設的な議論が展開されることを期待しています。

ILCの物理と測定器に関する活動に関しては、引き続きワーキンググループ3がサポートし、共通の関心を持つ研究所や大学グループの協力を促進していく予定です。ICFAは来春までの、2つのタスクの明確な進展を期待しています。IDTおよび国際コミュニティは、ILC-JapanやKEKと協力のもと、このミッション完遂に向けてより一層の努力をして参る所存です。これからの1年もまた、忙しくエキサイティングな年になることでしょう。

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