ILCニュースライン6月26日号の翻訳記事です
「LCWS2023は、世界中から200人以上の参加者が集まり、将来の直線型ヒッグス・ファクトリーについて議論する、非常に楽しく生産的な会合でした」と、5月15日から19日までSLAC国立加速器研究所で開催されたリニアコライダー・ワークショップ2023の主催者の一人であるカテリーナ・ヴェルニエリは語った。
COVID-19の流行が始まって以来、研究者の多くは実際に顔を合わせることが無かった。過去3年間のコミュニケーションは、主にコンピューターの画面を通して行われていた。そのため、LCWS2023は、再会の絶好の機会となったのである。「この活気あるコミュニティーが一堂に会して、進捗状況を確認し、直線型ヒッグス・ファクトリーへの次のステップについて議論するのを見ることができ、とても素晴らしかったです」とヴェルニエリは語った。
リニアコライダーの研究に長く携わってきた “ベテラン “の科学者や技術者に加え、会議には多くの若手研究者も出席していた。
「エミリオ・ナンニ、スペンサー・ゲスナー、そしてカテリーナ・ヴェルニエリ。彼らは同じく若手の同僚や学生たちを連れてきました」とSLACの素粒子理論家マイケル・ペスキンは言う。「高温超伝導テープに基づくバンチ・コンプレッサー、超高勾配プラズマと構造ウェークフィールド加速器などの革新に関するポスター発表が行われました」と若手研究者の活躍に注目する。
会議では、特に加速器の持続可能性にも焦点が当てられた。「ハイライトのひとつは、CLICとILCの建設計画に関する厳密な炭素コスト分析で、スザンヌ・エヴァンスが発表しました」とペスキン氏。他の大企業と同様、高エネルギー粒子衝突の研究にも必然的に環境コストがかかる。しかし、発表での雰囲気は前向きだった: 環境への影響に対する正しい評価基準は何か?どうすれば関連するすべての貢献要素を追跡できるのか?素粒子物理学を可能な限り環境に優しいものにするために、私たちはどのように自らの計画を見直し、政府や産業界とどのように協力すればよいのだろうか?といったことについて議論が行われた。
また、ILCの実現に向けた日本の産業団体である「先端加速器科学技術推進協会(AAA)」も、「グリーンILC」と呼ばれる持続可能なILC加速器の実現に向けた研究や、世界中の人々が憧れる持続可能な次世代コミュニティの創出に向けた研究など、AAAの活動についてプレゼンテーションを行った。
会議では、浅井祥仁、イェンス・オスターホフ、マイケル・ペスキン、スタイナー・スタップネス、カテリーナ・ヴェルニエリで構成されるパネルが、P5委員会に提出する声明文の作成に協力した。委員会は現在、今後20年間の米国の高エネルギー物理学の優先課題を評価している。何度かの議論と修正を経て、最終日のパネルディスカッションで最終版の声明が共有され、P5委員会に送るための最終決定がなされた。
「この声明は、費用対効果、エネルギー拡張性、世界的な取り組みとして実施することの重要性など、ILCの価値をコミュニティが認識し、認めていることを再確認するものです。これは非常に価値のあることです」と、ILC-Japanのスポークスパーソンを務める東京大学教授の浅井昭二氏は言う。「各国の事情はさまざまであるにもかかわらず、この声明を作成できたことは意義深い。共通の意見を持つことができたことは特筆すべきことです」と語った。
「LCWS2023からのe+e-ヒッグスファクトリーの将来に関する声明」はこちらから見ることができる。