※この記事は、2024年11月29日に発行されたILC NewsLineのディレクターズ・コーナーの翻訳記事です。
20年以上前から、2つの主要なリニアコライダー計画が提案されています。1つは、クライストロン駆動の超伝導高周波(SCRF)加速空洞を基盤とする国際リニアコライダー(ILC)、もう1つは、ビーム駆動型の常伝導空洞を基盤とするコンパクトリニアコライダー(CLIC)です。しかし、ここ数年では、 C3(Cキューブ:Cool Copper Collider/低温銅製空洞衝突型加速器) やエネルギー回収型、連続波運転、あるいはプラズマ加速に基づくコンセプトなど、多くのアイデアが浮上しています。これまで、「日本のILC」、「CERN (スイス)のCLIC」、「フェルミ国立加速器研究所(米国) のC3」、といったように、多くの場合、特定の加速器が特定の候補地に建設されることを念頭に議論されてきました。このアプローチは、具体的な計画の承認に近づいている場合には非常に理にかなっています。しかし、現時点ではいずれのリニアコライダー計画も残念ながらその段階には達していません。
そこで、ここでちょっと視点を変えて、技術や設置場所の違いに関わらず、すべてのリニアコライダーが、共通の物理目標と素粒子物理学の未来に向けた共通のグローバルビジョンを共有していることを思い出してみてはどうでしょうか?
約1テラ電子ボルト(TeV)までの重心系エネルギーで衝突する偏極電子・陽電子ビームを持つリニアコライダーでは、ハドロン衝突型加速器と相補的な形でヒッグス粒子とトップクォークを探索する豊富な研究プログラムを実施することができます
1TeV以上の領域では、未知の現象を探索することが主な目的となりますが、それ以外にどのような物理学的事象を研究できるのかは、まだはっきりしていません。この点に関しては、高ルミノシティLHCでの実験の成果によって状況が変わるか可能性があります。とは言え、例えばILCの技術設計報告書で、既存技術で1TeVに到達する方法が提案がされているように、リニアコライダーでは、エネルギーのアップグレードが可能だということが非常に重要なポイントです。
実は、ヒッグス粒子とトップクォークは、もっと低いエネルギーで測定することが可能です。そのため、初期エネルギーが250ギガ電子ボルト(GeV)、または550GeVの加速器は、コスト面でも、環境負荷の面、最初から1TeVを目指す加速器より格段に安価に、宇宙の謎に関する新たな手がかりを得られる実験を行うことができるのです。加速器が適切に設計されていれば、必要に応じてより高いエネルギー、またはより高いルミノシティへとアップグレードすることが可能になるのです。
今回の国際ワークショップ- the International Workshop on Future Linear Collider(LCWS)では、様々な異なる技術を用いて、これまで以上に目新しく幅広い視点からのアップグレードの可能性が探求されました。例えば、従来の主要線形加速器全体をより高い勾配を実現できる技術で置き換えることで、トンネルを延長することなく1TeVを超える中心質量エネルギーを達成する案が検討されています。そのために使う技術としては、より高い勾配を持つ改良型SCRF(超伝導高周波加速空洞)や冷却銅空洞、CLICのような駆動ビーム方式、さらにはプラズマ加速器技術などが有力な候補として挙げられています。
もし将来の物理学の結果から、より高いエネルギーよりも、高いルミノシティが必要であることが示された場合、エネルギー回収や粒子回収を利用したアップグレードが有望な道となるでしょう。現時点では具体的なアップグレード案を選ぶのは時期尚早ですが、先進的な加速器技術を取り入れる柔軟性はリニアコライダーアプローチの重要な特徴です。
いずれにせよ、リニアコライダー施設には第2の衝突点を設置するための領域を追加することを検討することができます。例えば、光子衝突のための相互作用点や、固定ターゲット実験、検出器や加速器の研究開発のためのビームダンプやビームラインの設置などです。このようにして、施設自体のアップグレード技術を実証するための大規模な装置を設置することも可能です。
一方で、リニアコライダー施設は、10TeVのパートンエネルギースケールのものを選ぶこともできます。このエネルギースケールを達成するにはために必要な技術は現時点ではまだ存在せず、必要なエネルギーの規模も明確には分かっていません。最終的に、ハドロンコライダー、ミューオンコライダー、プラズマウェイクフィールド型電子・陽電子コライダー、あるいはそれらを組み合わせたものの中で最適かどうかの選択は、今後の研究開発の進展や物理学の発展によって決まるでしょう。
A Global Linear Collider Vision(略してLCVision)という名のもと、前述のアイデアはLCWS2024全体を通じて議論されました。初日午後のセッションで幕を開け、最終日の全体会議でのプレゼンテーションで最高潮に達しました。パラレルセッションやコーヒーブレイク中の会話でも頻繁に話題となり、参加者全員が刺激を受けたようです。これらのアイデアについて追求し、次回の欧州素粒子物理学戦略の更新に向けて一貫した形でまとめるべきだという認識が明確になりました。
一方で、LCVisionが設立され、さまざまなアップグレード案を具体化するための作業や、このリニアコライダー施設をCERNの次のプロジェクトとして提案するための取り組みが始まっています。その成果は、2025年1月8日から10日にCERNで開催されるLCVisionワークショップで発表される予定です。登録は12月15日まで受け付けています。関心のある方は、ぜひLCVision-Generalにてご登録下さい(終了しています)。
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