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last update:09/08/27  

   image クリーンなシグナルを追って    2009.8.27
 
        〜 Belleグループが捉えた新現象 〜
 
 
  電話がかかってきた時に、「もしもし」という声を聞いただけで誰からかかってきたのかがわかることがある。そんな経験をした方もいらっしゃると思います。世の中にはそれこそありとあらゆるいろんな種類の音があふれていますが、人間の耳はその中から聞き慣れた人の声をピンポイントで聞き分ける、不思議な能力があるようです。

KEKのBファクトリー実験でも、B中間子を大量に作り出すことによって、様々な素粒子反応を日々記録していますが、その中でも研究者が特に重要と考える「レプトン対」というごく稀な反応を調べることで新しい物理学の兆候を追い求める、最新の研究成果についてご紹介しましょう。

レプトン対への崩壊を調べる

Belle実験グループでは、KEKのKEKB加速器が作り出すB中間子と反B中間子の対がどのように崩壊してどんな粒子が現れるかを精密に調べています。KEKB加速器の性能は着実に向上し、今年6月までに8億対以上のB中間子-反B中間子対のデータを蓄積することに成功しました。Belleグループはこのうちの6億6千万対のデータからB中間子がK(ケイスター)中間子と電子と陽電子の対、または正のミュー粒子と負のミュー粒子の対に壊れる崩壊で、電子陽電子対、ミュー粒子の対が放出される方向を詳しく調べました。KはK中間子の励起状態の一種です。

高エネルギー物理学の実験では、電子陽電子対と正と負のミュー粒子の対をあわせて「レプトン対」と呼びます。レプトンとは電子やミュー粒子の仲間の素粒子の一種で、他にはタウ粒子やニュートリノがあります。B中間子の崩壊の過程ではタウ粒子の対も現れるはずですが、その過程が複雑で他の現象との見分けが難しいため、実験データの解析では「レプトン対」は電子陽電子対かミュー粒子の対だけをいいます。

レプトン対を含む素粒子反応は、WボソンやZボソンが関わる弱い力が関係するため、他の反応に比べるとごく稀にしか起きませんが、粒子を測定する時には電子やミュー粒子の速さや向き(運動量)やエネルギーを精密に測定することができます。また、強い力が関係する他の反応と比べると、理論的な予測と実験値を比較するのが容易、という特徴があります。

粒子の放出方向は回転の性質に敏感

B中間子からK中間子とレプトン対へは、図1のようなペンギンダイアグラムと呼ばれる過程を通して崩壊します。B中間子の質量は約52億電子ボルトですが、この崩壊の過程では800億電子ボルトのWボソンと1700億電子ボルトのトップクォークなどが一瞬だけ反応に関与する「トンネル効果」という現象が起きます。このため、KEKB加速器で生み出すよりもずっと高いエネルギーの現象を間接的に詳しく調べることが可能になります。

玉突きゲームなどでボールに回転を与えて別のボールにぶつけると、それぞれのボールが跳ね返る角度は元のボールの回転速度によって変化します。似たようなことは素粒子の反応でも起きるので、反応で生じるレプトン対の方向を調べると、元の素粒子の回転の性質、「スピン」という量に敏感になります。

レプトン対がK中間子の崩壊方向に対してどちら向きに多く崩壊したかを調べた結果が図2です。この図で実線は素粒子の標準理論で既に存在が知られている全ての粒子について、その影響を理論的に予測したものです。

今回得られた実験結果は、標準理論からの予測からややずれていますが、確定的なことを調べるにはまだまだデータがたりません。しかし、未知の粒子、例えば超対称性粒子と呼ばれる粒子がもし存在すれば、スピンが異なる粒子の影響はこの測定の精度をさらに上げることで敏感に調べることができるようになると予測されます(図2の点線)。

素粒子物理学の未来へ

未知の現象を探そうとするとき、素粒子物理学ではLHC計画のような超巨大な加速器を使って、前人未到のエネルギー領域の実験を行う、直接的な探索と、KEKB加速器のように世界最高の電子ビームと陽電子ビームの衝突頻度(ルミノシティ)による大量のB中間子-反B中間子対をもとに、未知の粒子の存在に敏感な稀な反応について詳しく調べる、間接的な探索の二つがあります。

この二つの手法は、お互いに補いあいながら、まだ我々の知らない世界の現象をこれからも見せてくれることでしょう。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Belleグループのwebページ
  http://belle.kek.jp/
→KEKBのwebページ
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/

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[図1]
B中間子がK中間子とレプトン対に崩壊する過程(ペンギンダイアグラム)。
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[図2]
B中間子がK中間子とレプトン対に崩壊する過程のレプトンの方向分布を示すデータ。縦軸(AFB、前後方非対称度)は、K中間子の方向に対する正荷電レプトンの方向の前方側と後方側の非対称性を意味する。横軸(q2)は、レプトン対の質量。黒丸はデータ、実線は標準理論の予想、破線は超対称性粒子が生成された場合の予想の一例を示す。
拡大図(24KB)
 
 
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[図3]
クォークは最も基本的な粒子で、6種類が存在する。3つの階層に分類されており、それぞれ[アップ,ダウン]、[チャーム,ストレンジ]、[トップ,ボトム]と名付けられている。このうち、アップ、チャーム、トップは電荷+2/3を、ダウン、ストレンジ、ボトムは電荷‐1 /3を持つ。また、各クォークには反対符号の電荷を持つ反粒子(反クォーク)が存在する。
拡大図(57KB)
 
 
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[図4]
超対称性粒子の一例。超対称性粒子は超対称性理論によって存在が予言されている未知の粒子。素粒子の標準理論で既知のクォーク、レプトンなどすべての粒子に対して、超対称性と呼ばれる数学的変換に対応したパートナーの粒子が存在するとされる。通常、各粒子の記号の上に「〜」をつけて「超対称性」を表記する。クォークのパートナー粒子は「スカラークォーク」と呼ばれ、略して「スクォーク」(頭にsをつける)とも呼ばれる。電荷は元のクォークと同じ。クォークと同様に反対の電荷を持つ反粒子(反スクォーク)が存在する。
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[図5]
Belle測定器。9月6日の一般公開では、このような光景を見ることができる。
拡大図(101KB)
 
 
 
 
 

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