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クォーク4個が確実に? 2007.11.22 |
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〜 新発見の粒子の奇妙さ 〜 |
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「動物」と「植物」はどうやって区別されるのでしょうか。植物は光を浴びることで栄養を蓄えて生きています。ほとんどの植物はあまり動きません。それに対して動物は、植物や他の動物を食べないと生きていけません。エサを求めてあちこち動き回るのも動物の特徴です。ところが自然界には動物にも植物にもあてはまらない、あるいはそのどちらの特徴も兼ね備えているような、不思議な生物がたくさんいます。 自然に存在するものをある基準で分類する時に、その基準に当てはまらないものを探しだして詳しく調べていくと、自然についての理解がもっと深まったり、思いがけない発見をしたりすることがあります。今日は、Belle実験グループが発見した奇妙な新粒子についてご紹介しましょう。 クォークは「2個」か「3個」の組 原子核の中に含まれる陽子や中性子は1960年代までは物質を構成する究極の粒子、つまり「素粒子」であると考えられていました。ところが1950年代から1960年代にかけて、加速器や宇宙線の実験の中からたくさんの新しい粒子が見つかるようになり、これらが全て「素」粒子であることは考えにくい、と見なされるようになりました。 ゲルマンとツワイクは1964年、「陽子、中性子や、加速器の実験で見つかった粒子は、『クォーク』という、もっと小さい粒子が2個か3個、組み合わさってできている」と提唱しました(図1)。 その頃は、クォークはアップ、ボトム、ストレンジの3種類と考えられていましたが、1974年にはチャームクォークを含む粒子が、1977年にはボトムクォークが、1995年にはトップクォークがそれぞれ発見され(図2)、現在では6種類となっています。これらのクォークが2個や3個の組み合わせで中間子や陽子などを作っていることは、今では確実と考えられています。 『色』の組み合わせ では、クォークは単独では存在しないのでしょうか? クォークとクォークを結びつけている「強い力」は、とても不思議な性質を持つと考えられています。クォークは三種類の「色」を持つと仮定して、光の三原色のように三つの色が打ち消し合って「白」になった時だけが安定になる、という強い力の理論を作っていくと、いろいろな実験データをとてもうまく説明することができます。そこでこの理論は「量子色力学」と名付けられました。 では、量子色力学では、クォークが「2個」か「3個」の組み合わせ以外は考えられないのでしょうか? 実は、「4個」や「5個」の組み合わせで「白」の状態を考えることは可能です。ただ、その組み合わせが本当にあるかどうかがわからなかったので、長い間、クォークの組み合わせは「2個」か「3個」だけ、と、考えられてきました。 クォーク5個の組み合わせの可能性があるデータが最初に得られたのは、2002年のSPring-8の実験でした。ただ、この結果は他の実験グループの検証ではまだ確認が取れていません。 一方、Belle実験グループや米国SLAC研究所のBaBar実験グループでは「クォーク4個」の組み合わせの可能性があるX(3872)、Y(4260)、X(3940)、Y(3940)などの新粒子を2003年から次々に見つけてきました。 チャーモニウムではない では、これらの新粒子はクォーク4個であることが確実だったのか、というと、そうではありません。これまでにわかっていたのは、「ここ(この質量)に、こんな性質を持つ粒子が見つかったけど、これは従来の中間子の分類では説明がつかないね」という状況でした。クォーク4個であると解釈するのがもっともらしいけれど、決め手には欠けていたのです。 見つかった新粒子の質量のあたりには「チャーモニウム中間子」と呼ばれるクォーク2個からなる粒子がたくさん存在します。「量子色力学で説明できるチャーモニウム中間子の質量とはだいぶ違うようだけど、もしかしたら量子色力学の計算の方が間違っているかもしれない」という可能性がまだ残っていました。 今回見つかったZ(4430)(図4、図5)は、プサイプライム(ψ')中間子とパイ(π)中間子に崩壊します。このことから、Z(4430)は電荷を持つ、つまり、プラスかマイナスに帯電した粒子であることがわかります。チャーモニウム中間子であれば電荷は必ずゼロなので、Z(4430)は「チャーモニウムではない」ということができます。一方、壊れた先のプサイプライム中間子はチャーモニウムの一種なので、チャームクォークと反チャームクォークを含んでいます。チャームクォークと反チャームクォークを含み、かつ電荷がゼロでない組み合わせ、となると、クォーク4個がいちばん「もっともらしい」ということになります(図6)。 漸進する科学 新粒子Z(4430)の発見をもって「クォーク4個であることが確実」と断言するのはまだ早すぎます。しかし、X(3872)だけが見つかっていた頃と比べると、その可能性はぐんと高くなりました。科学の世界では、探偵が地味な証拠を少しずつ積み重ねていくように、少しずつ着実に進歩を積み重ねていく姿勢もとても重要です。誕生から30年経っても未だによくわからない部分もある量子色力学が、Z(4430)のような不思議な粒子を詳しく調べていくことで、ある日、次の大きな発見につながるのかもしれません。
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