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移り変わる中間子 2007.8.23 |
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〜 Belleグループが発見したD0中間子の混合 〜 |
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粒子には、重さや性質がそっくりだけれども、出会うとお互いにエネルギーになって消滅してしまう「反粒子」という相棒がいます。いつもはめったにお目にかかることの無い反粒子ですが、ある種の中間子と呼ばれる粒子は、ある瞬間には粒子となったり、次の瞬間にはその反粒子となったりという、「混合」という不思議な現象を起こします。この現象は、電気的に中性のK中間子とB中間子で起きることが知られていましたが、最後に残されたD中間子でもこの現象が起きていることが、Belle実験グループのデータ解析から明らかになりました。(図1、図2) つじつまが合えば「変身」 ミクロの世界では、我々の常識ではなかなか理解することが難しい現象がたくさん起きます。1973年のノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈博士が発明した「トンネル効果ダイオード」もそのひとつで、電子がもともと持っているよりも大きなエネルギー障壁を乗り越えて電流が流れるという現象を利用したものです。 素粒子の世界でもこのトンネル効果はいろいろな場所で起きています。そのひとつが重いクォークの崩壊現象で、ダウンクォークが崩壊する際に、Wボソンという、ダウンクォーク自身よりも数千倍重い粒子を一瞬の間生み出して、より軽いアップクォークへと変化します(図3)。崩壊の前と後でエネルギーが保存されていれば、一瞬の間、つじつまのあわない状態が現れてしまうという現象が、ある確率で起きるのです。 中間子という種類の粒子は、クォークと反クォークがペアになってできています。ダウンクォークと反ボトムクォークのペアはBd中間子、ダウンクォークと反ストレンジクォークのペアはK0中間子、という具合です(図4)。それぞれが一瞬の間、Wボソンと、さらに他の種類のクォークを生み出す反応を行えば、エネルギー的につじつまの合う「自分と反対の粒子」、つまり反Bd中間子や反K0中間子に変化する、という現象が起きます(図5)。 見つからなかった「アップ型中間子」の混合 このような混合現象は、電気的に中間子でだけ発生しますが、これまではK中間子とB中間子という、ダウン型のクォークを含んだ中間子でしか確認されていませんでした。アップ型のクォークのうち、アップクォークだけでは中間子にならないのと、トップクォークは特別に重くて寿命が短いために中間子の状態を作らないと考えられていますので、チャームクォークと反アップクォークのペアでできているD0中間子による混合はいわば「最後の組み合わせ」でした。 これまで行われてきた素粒子実験の結果を矛盾無く説明する標準理論による計算では、D0中間子が混合を起こす確率は100分の1から10万分の1程度で、実験で観測するのは難しいと予測されていました。 Belle実験グループでこれまでの実験データを詳しく解析したところ、D0中間子がK中間子とパイ中間子の組に崩壊する際の寿命と、K中間子の組もしくはパイ中間子の組に崩壊する際の寿命の間にわずかなずれがあることがわかりました(図6)。これはD0中間子が混合現象を起こして、100分の1程度の確率で反D0中間子に変化していることを示しています。 未知の現象を探す手がかりとして 実験から得られたD0中間子の混合の確率は、現在の精度では標準理論による予測の上限付近であるため、これ自身が画期的な新発見というわけではありません。しかし、結果が理論的予測の上限付近であったことに対して、世界の理論物理学者の注目が集まりつつあります。加速器の性能があがって、実験データを更に大量に解析することができれば、この現象が未知の粒子を追いかける際の重要な手がかりになるかもしれないからです。 かつてK中間子の混合現象が発見されたとき、その様子から当時まだ発見されていなかったチャームクォークの存在と質量がかなり正確に明らかにされました。また、B中間子の混合からは同じようにしてトップクォークのことが発見の10年前に明らかになりました。今回のD中間子の混合から何が分かるのか、活発な研究が今始まろうとしています。 一時的にエネルギーのつじつまが合わなくなる「トンネル効果」を通して、未知の領域を探索する。Belle実験グループの今後の研究に注目が集まります。
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