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鏡の中の法則 2006.4.6 |
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〜 Belleが発見した新しいCP対称性の破れ 〜 |
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1999年から実験を開始したKEKのBファクトリー実験では、B中間子という粒子と反粒子である反B中間子の性質の違いを詳しく調べています。その結果についてはこれまでにも何度かお伝えしてきましたが、これまで見つかっていなかった、電荷を持つB中間子のある振る舞いについてご紹介しましょう。 プラスとマイナス、右と左の反転 素粒子物理学の方程式を解くと、粒子には必ずそのペアとなる反粒子が存在することを予言したのはディラックでしたが、電子の反粒子である陽電子は1932年にアンダーソンによって宇宙線の中から発見されました。 反粒子は帯びている電気(電荷:Charge)が粒子と反対ですが、全く同じ重さを持ちます。 中性子が陽子に崩壊する時など、その様子を表す方程式は粒子のプラスとマイナス、空間の右と左を反転させても形を変えない(CP対称性)と考えられてきましたが、フィッチとクローニンらは中性K中間子の崩壊で、この対称性がわずかに破れている現象を1964年に発見しました。この現象を説明するためには6種類のクォークが必要であることを示したのが以前にもご紹介した小林益川理論(図1)です。 この理論によると、粒子のプラスとマイナス、右と左を入れ替えてやると、ほとんどが鏡に映ったように同じ世界が見えるのに対し、ある種の素粒子反応だけが違った確率で起きるようになります。例えていえば、粒子のサイコロで6の目が出る確率だけが反粒子のサイコロよりも少しだけ多い(図2)、などのようなものです。 難しかった荷電粒子での観測 このCP対称性の破れという現象はこれまでは中性K中間子や中性B中間子で確認されてきました。「中性」ということは、電荷を持たない、つまり、プラスの電気もマイナスの電気も帯びていないということです。 「プラスもマイナスもないのだから、粒子と反粒子の区別もないのでは」と思われるかもしれませんが、中性K中間子や中性B中間子の場合は、それ以外の性質から粒子と反粒子を区別することができます。 Belleグループが2001年にCP対称性の破れを最初に発見した時は、中性B中間子とその反粒子の混合による「破れ」を測定しました。でも、混合ってなんのことか難しくてわかりにくいですね。 図2のように、粒子の世界と鏡に映った反粒子の世界が明確に異なる法則で振る舞っていることを見つけることができれば、CP対称性の「直接的な破れ」をとらえたことになります。中性B中間子とその反粒子の崩壊様式の反応頻度に直接的な違いがあることは2003年にπ中間子対で、2004年にK中間子とπ中間子の組(図3)で発見されました。でも、プラスのB中間子とマイナスのB中間子の振る舞いを直接比べて、その性質に違いを見つけることができればもっとわかりやすくなります。 Bファクトリー実験では2005年までに500fb-1(インバースフェムトバーン)というデータを蓄積しました。およそ5億対のB中間子と反B中間子を発生させたことになります。この大量のデータの中からついに、プラスのB中間子とマイナスのB中間子の崩壊の頻度の違いを見つけることができました(図4)。この反応は100万回に4回程度というまれな確率でしか起きないので、大量のデータが必要だったわけです。 図4の矢印の部分の山の高さの違いがこの崩壊様式でのB中間子と反B中間子の反応頻度の違いをあらわしています。頻度の差の割合をあらわす「A」という値は 0.30±0.11 と、かなり大きいものでした(図5)。(注:SLACのBaBar実験ではこの値は 0.32±0.13 と発表されています) 荷電B中間子の崩壊でCP対称性の直接的な破れが見つかったことは、小林益川理論の正しさがますます高められたことを意味しています。ただし、理論から予測される「A」の値にはまだかなりの幅があります。今後、Bファクトリーの性能をさらに上げて、もっと大量のデータを蓄えることで、理論と実験の結果を検証する作業を続けていく必要があります。
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