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私は物質構造科学研究所長の木村です。
物質構造科学研究所では高エネルギー加速器で作られる放射光や中性子、中間子などを使って物質の構造と機能の研究をしています。研究の対象は新しい物理現象を示す高温超伝導体から生命現象をつかさどる生体高分子まで多岐にわたっています。
このように加速器を使って総合多角的に物質を研究する施設は世界的にも新しい試みであり、行く行くはこの分野の国際的な研究センターになることを目指しています。
さて、私の専門は粒子加速器ですが、私がこの方面に進んだそもそもの発端はと思いめぐらせますと、約50年ほど昔に遡ります。丁度私が小学校の3ー4年生の頃であったと思いますが、湯川先生が中間子の予言でノーベル賞を受賞されました。敗戦直後で皆意気消沈していた時期でしたから非常に強く印象に残りました。それから12ー3年して大学院に進学することになりましたが、丁度その時東京大学原子核研究所に電子シンクロトロンという加速器が完成し、日本で初めて湯川先生の中間子を人工的に作って研究できることになりました。そこで迷わずその方へ進んだわけです。加速器は実験研究のための装置ですが、その複雑さや規模の大きさから、極論しますと、究極の大人のおもちゃという趣が有りまして、苦労して完成させ、うまく粒子を加速できた時の感激は何物にも代え難いものが有ります。最後に若い方々に一言ということですが、私達の時代はそれまでの流れを引き継いで、物理現象をよりシンプルな要素に還元して説明するという手法が研究の主流で、研究の方向性も比較的見付けやすかったように思います。しかし最近の状況を見ますと、逆に現象の多様性の中から面白いことが見いだされるという方向に進みつつあるようで、こうなりますと方向性について答えを出すのもなかなか容易ではありません。言い換えますと、取るべき方向も多様なわけで、適当なお手本を見付けにくいということです。そこでこれからは、何事も自分自身で考え判断していくという習慣を養うことがますます重要になってくると思います。 |
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