こんにちは、素粒子原子研究所の山田です。
素粒子原子核研究所では、全国の大学の研究者、あるいは世界の研究者が主として加速器を用いた素粒子、原子核物理の研究をする場を提供し、協力しながら研究しています。また、関連する理論的研究も行っています。多くの大学院生も研究の一翼を担っています。

全ての物質は原子からできていることは、皆さんご承知の通りです。原子の中心には原子核があり、その回りを電子が回っています。「原子核」と聞いただけで恐ろしいものと感ずる人もいますが、原子核なしの物質はありません。我々の体重の99.9%以上は炭素、酸素、チッ素などの原子の原子核の重さです。原子核は陽子と中性子から作られています。物質はこの2種類の粒子の組合せで多様な姿を表します。元素のタイプは陽子数で決まります。物質研究の基礎として、また、応用の基礎として、原子核研究は非常に大切な分野です。陽子、中性子はさらに調べると、クォークからできていることがわかって来ました。今ではクォークの仲間と電子の仲間が最も基本的な物質の構成要素であると考えられています。これら素粒子の特性や相互に働く力を研究することは物質研究の最先端で、最も基本的な分野です。こうした素粒子の振舞が分かれば、より複雑な階層の現象を全部解明できるかというと、そうではありません。しかし、複雑な現象を調べる時、基本的な法則が分かっていると有力な助けとなることは確かです。

最近の研究では、原子核などのミクロの研究と宇宙の研究が非常に密接に関係していることが解ってきました。原子核の研究と星の中での元素合成の研究が切り離せない関係にあります。また、ビッグバン直後の宇宙の進化の研究には素粒子の研究が不可欠です。今では、超ミクロの世界の研究者と広大な宇宙の研究者が協力して行う研究も沢山あります。

私は素粒子の実験を専門としているので、少々実験の話をします。実験というのは、自然に直接問いかけて、答を教えてもらうというものです。ある程度答の予想がつく場合にはそれがきちんと分かるような工夫をしますが、前もって答の分からない場合もあります。どのような答えであっても捕らえられるように工夫するのは、実験家の腕前とも言えます。予想どおり測定装置が動いて結果が出れば嬉しいですが、もっと嬉しいのは、予想のつかなかった答えとか、予想に反した答えが出た時です。そうした興奮はたびたびあるわけでも、また、誰にでも訪れるのでもありません。

最近の素粒子実験は規模が大きくなって、大勢の研究者が協力して行います。ことに大規模な実験は殆どが国際協力実験です。各国がそれぞれいろいろな装置を作らず、国際的分業で異なったタイプの加速器を世界の1又は2ヶ所程度に作る結果、あるタイプは日本にあるが別のタイプの実験は外国で、ということになります。装置が複雑で、世界中から、いろいろな専門家が集まって大規模な国際実験チームを作ります。この結果、若い時から国際的環境で教育される人が多くなっています。彼らを見ていると、いろいろな国の人とすぐに親しくなって一緒に仕事をするようになり、これは素晴らしいことと思います。

次に、私が何故物理を志したかと申しますと、湯川先生がノーベル賞を受賞したことが影響していると思います。物心ついた時は戦争中で、間もなく終戦になり、子供心にも将来どうなるか大層不安でした。そんな中で、物理学は暗やみに燈を灯すことの出来る学問で世界に通ずる道だと身にしみて感じたことを覚えています。と言っても、自分が物理学者の研究者になれるか、どうすればいいかなど全く分からず、信州の山の中でのんびりと、田舎の子供が遊ぶことはなんでもやっていました。夏は川で泳ぎ、魚を取ったり、冬は暗くなるまで雪の中で遊んだりしていました。ただ、物作りが好きで、友達と模型ヒコーキ作ったり、鉱石ラジオなども作りました。その中で、多少のめり込んだのは、チョウ集めです。小学校の高学年のころ、春から秋にかけて、日曜日毎に友人と二人で、善光寺の裏山から飯綱にかけて、歩き回った時期があります。標本にしたほか、学校の顕微鏡で羽根のリン粉の並び方を見て、キレイで見あきなかったし、拡大図を書き写したりしました。中学生になってから、理科的な遊びに興味を持って、薬品を買って来て水の電気分解をしたり、炭を作って、それで線香花火を作ったこともありました。

本格的物理の勉強をしたのは大学に入ってからです。やってみると、実に面白い。正直高校レベルとは全く違って巾といい、深さといいはるかに大きく感じました。一見違った現象の根源が同じだったり、共通の原理が当てはまったりして、わくわくした事を覚えています。理論の美しさも知りましたが、もの作りが好きでしたので、実験の研究室に出入りしました。講義以外でも先生が実験させてくれ、研究室の最新の装置も空いている時には使わせてくれました。当時まだ希少だった計算機、計測装置を用いたり、自分達の工夫で物作りもさせてもらいました。授業とは無関係に研究室に行って、実験させてもらうのが楽しくて仕方なかった。今では、関与する実験のスケールは大きくなったし、学生さんにチャンスを与える立場に変わりましたが、実験を楽しむことは、そのまま続いています。また、ほぼ30年間、国際協力実験に携わっていますが、研究を通じて、世界中に大勢の友人を作ることができたのも大変嬉しいことと思っています。一緒に仕事をした人とは限らず、ライバルとも大変仲の良い友達になれました。これは私にとっては貴重な財産です。

現在は、私たちが学生の頃とは大分時代は変わっていますが、今でも若い人が自分の手で実験の面白さを体験したり、最前線の研究の現場を見るチャンスはあるはずです。是非、積極的にそういうチャンスを生かして頂きたいと思います。私たちの研究所も見学は大歓迎です。




素粒子原子核研究所 藤井 恵介博士
大強度陽子加速器計画推進部 永宮 正治部長
素粒子原子核研究所 石橋 延幸博士
物質構造科学研究所 新井 正敏博士
物質構造科学研究所 五十嵐 教之博士
物質構造科学研究所 林 慶 さん
東京大学物性研究所 原沢 あゆみ さん
加速器研究施設 森 義治博士
高エネルギー加速器研究機構 菅原寛孝前機構長
江崎玲於奈博士
素粒子原子核研究所 山田作衛前所長
物質構造科学研究所 木村 嘉孝前所長

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