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素粒子・原子核物理学は、物質の究極的な構造と自然界の力の本質を研究する学問である。
自然科学の分野には数多くの謎があるが、中でも「物質とは何か?」「宇宙とは何か?」「生命とは何か?」の3つは、3大謎として洋の東西、時代の変遷にかかわらず追究されてきた。
古代ギリシャの哲学者は、火、空気、水、土の4種類の物体から物質的宇宙が構成されていると想像した。現在では、物質は究極的に、いくつかの基本粒子(素粒子)から構成されていると考えられている。
すべての物質は、原子という微粒子でできている。原子の中心には原子核があり、その回りを電子が回っている。原子核はプラスの電荷を、電子はマイナスの電荷を持って互いに引っ張りあっている。
原子の中心にある原子核は、陽子と中性子という2種類の粒子でできている。
原子をつくっている電子、陽子、中性子などは物質の素であると考えられ「素粒子」と呼ばれてきた。
陽子はプラスの電荷を持っているが、中性子は電荷がない。従って、陽子と中性子は電磁気力以外の新しい力で結合していると考えられ、湯川博士は、この新しい力のもととして、パイ中間子という新しい素粒子の存在を予言し、後に、その存在が確認されノーベル物理学賞を受賞した。その後、加速器の発達とともに、多くの新しい素粒子が発見された。
これまでに発見された素粒子は、200種以上にのぼる。これらの素粒子は、光子(光の粒子)など、自然界の力のもとになっているゲージ粒子と、物質のもととなるレプトン(電子の仲間)及び大多数の粒子を含むハドロン(陽子、中性子、中間子の仲間)に分類される。やがて、ハドロンは内部構造を持ち、より基本的なクォークと呼ばれる粒子から成り立っていることが明らかになり、物質はレプトンとクォークで構成されると考えられている。
一方、自然界には、重力、電磁気力、強い力、弱い力の4種類の力が存在している。ごく最近、電磁力と弱い力は、もともと同一の力として統一できることが分かった(電弱理論)。この統一理論の研究から、光子の仲間の重い粒子W±,Z0が発見され、クォークの研究からクォーク同士を結び付けるグルーオンの存在が明らかにされた。
こうして、現在のところ、レプトンとクォークがそれぞれ6種類(2種類ずつ3世代)、それに、光子、W±,Z0、グルーオンというこれらの粒子間に働く力を伝える一群の粒子が、自然界の基本粒子であると考えられている。
このような基本粒子の探究は、電子や陽子等を光速度に近い速度まで加速して衝突させる時創り出される粒子を調べることによって行われる。探究する対象が微細になればなるほど高いエネルギーの粒子が必要になり、それらを加速したり測定したりする装置(加速器や測定器)は大がかりなものになる。
標準理論の予言するヒッグス粒子の実験的検証、さらに標準理論を超えた事象の探索などは、これからの研究課題である。
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物質を構成しているクォークとレプトン
世代 |
1 |
2 |
3 |
電荷 |
レプトン |
電子ニュートリノ
電子 |
ミューニュートリノ
ミュオン |
タウニュートリノ
タウ粒子 |
0
-e |
クォーク |
アップ
ダウン |
チャーム
ストレンジ |
トップ
ボトム |
2/3e
-1/3e |
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クォークは、同じクォークでも、さらに3種類あると考えられており、便宜的に赤、緑、青の3色で区別する。
ニュートリノの質量は他のレプトンに比べて圧倒的に小さい。その質量の起源は長年の謎である。近年、その起源が超高エネルギー領域の物理にあるというシーソー機構が提案された。粒子=反粒子のニュートリノが質量を持つことは、レプトン数が保存されない可能性を意味し、現在の宇宙において物質が反物質より多いという事実を説明する鍵となるかもしれない。そこで、微少なニュートリノ質量の測定は、現在の最大の興味の一つとなっている。
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自然界の力とそのもとになっているゲージ粒子
力(相互作用) |
力の強さ |
力の作用半径 |
ゲージ粒子 |
万有引力
電磁気力
強 い 力
弱 い 力 |
10-40
10-2
1
10-5 |
∞
∞
10-13cm
10-16cm |
重力子(グラビトン)
光 子(フォトン)
グルーオン
W±、Z0 |
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