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2020S2-002 小惑星探査機「はやぶさ2」リターンサンプルの放射光X線回折実験

実験責任者 所属 ステーション 期  間
中村 智樹 東北大学 3A 2020/10〜2023/9
 彗星や小惑星は太陽系で最初にできた天体であり、太陽系の起源や惑星形成の初期進化を記録している科学的に重要な小天体である。水を含む小惑星(含水小惑星)は、太陽系黎明期に始原的な水(氷)と無水ケイ酸塩を主成分とする塵が集積し、形成された。天体内部の温度が上昇し氷が溶け、液体の水と無水ケイ酸塩が反応し含水鉱物が形成された。一方、多くの含水小惑星では水質変成の後にさらに温度が上昇し、天体から水が失われたことがわかっている。これらの低温での含水鉱物化、その後の加熱による脱水のプロセスは、太陽系原始物質の初生的な化学進化を知る上で極めて重要である。しかしながら、加熱がいつ起こったのか、どのような原因で起こったのか、脱水は天体スケールで起こったのか等、本質的な理解が全く進んでおらず、本研究で解明したい。
  含水小惑星の加熱の原因を探るには、加熱脱水が天体スケールでどのように起こっているかを知る必要がある。このような天体スケールでの小惑星調査を世界で初めて達成したのが小惑星探査機「はやぶさ2」である。探査機は含水C型小惑星であるリュウグウの全球分光観測を遂行し、着陸地点を2点選定し、実際に2回着陸しサンプル回収に成功した。申請者の研究グループは探査機が地球に持ち帰る多くのリュウグウ粒子に対し、KEKにて放射光X線回折実験を行い、個々の粒子を構成する含水鉱物の特性や存在度から、水質変成条件や加熱温度を推定する。多くの粒子を分析、解析することで、加熱温度の分布を求める。リュウグウはラブルパイル型小惑星であり、最初に形成された小惑星が破壊され再集積したものである。したがって、リュウグウ表面には元の天体の様々な場所で形成された粒子が混合して存在している。個々の粒子の熱履歴を調べることで、リュウグウの加熱が天体スケールで均一に起こったのか、または不均一な加熱で天体の場所ごとに経験温度が違うのかを推定することができる。これによりリュウグウがどのようなメカニズムで加熱脱水を起こしたのかについて解明することが可能になる。
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