みなさんは「魔法瓶」と聞いて、何を思い浮かべますか?一家に1台は持っている保温のできる水筒を思い浮かべるでしょう。家庭にある魔法瓶は、冷たいお茶を冷たく、熱々のコーヒーを長い時間熱々のままに保つことができます。魔法瓶は内層と外層の二重構造をしており、その内層と外層との間には空間が設けられています。この空間を真空にすることで、熱を伝わりにくくしているのです。実は、ILCでも「クライオモジュール」という名前の魔法瓶が使われています。
ILCの魔法瓶は、家庭用のものとは用途も大きさも異なります。家庭用のものは、中に入れた飲み物を保温するために使いますが、ILCの魔法瓶は、超伝導加速空洞を-271℃(絶対温度2度)という超低温状態に保つために使います。超伝導加速空洞は、トンネルの中に設置され電子や陽電子を加速するためのものです。つまり、ILC加速器の「心臓部」ともいえる非常に重要な部品です。
ILCでは全長12mの巨大なクライオモジュール約2,000台を数珠つなぎにして使用します。その中に、約16,000台もの超伝導加速空洞を設置します。この中を電子と陽電子が走ることになります。空洞の外側をヘリウム容器で覆い、-271℃の液体ヘリウムを満たすことで低温状態を保ちます。断熱がうまくいかないと、冷却用の液体ヘリウムを際限なく注ぎ込まなければならず、非常に膨大なコストがかかってしまいます。
現在、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で製作途上のシステムは、実際のILCとほぼ同じ機器から構成されており、そこで実際に電子を加速することでILCに必要な技術を実証しようとしています。ILC通信の上部の右端に描かれているILCイラスト※中の右側トンネル内部とそっくりな事に気づかれたと思います。つまり大げさに言えば、ILC実現の第一歩が踏み出されました。同様のシステムはドイツ、米国でも製作中で、これら3地域での成果を統合してILCの技術を確立しようとしています。
※大きなイラストをご覧になりたい方は、2006年9月15日発行のILC通信第3号をご参照ください。