加速器図鑑:導波管

コラム

KEK の ATF(先端加速器試験施設)の線形加速器に使われている導波管。左の壁面に走っている銅の四角い管が導波管である。

導波管という言葉を聞いてもほとんどの読者は「?」と思うだけだろう。でも水道管、ガス管はすぐにわかるはずだ。ご存知のように水を送る為の管が水道管で、ガスを送る為の管がガス管である。これらと同様に導波管は波を送る為の管である。何の波か、、、電波である。電波を送る為の管が導波管である。電波を何処から何処へ送るのだろう。導波管は大出力の電波発生装置であるクライストロン*1で発生した電波を加速管に送る為に使われる。

導波管の実態は金属で出来た管である。中は真空に保たれ、電波は金属の壁にガイドされるようにして管の中を進む。我々は日常、放送局から送られてくる電波に乗ってやってくるテレビやラジオの番組を楽しんでいる。我々の家庭と放送局との間には導波管はない。テレビやラジオの電波と加速器で使われている電波の間に何か違いがあるのだろうか。この両者に本質的な違いはない。ただ目的が異なっている。テレビやラジオの電波は情報を運ぶ為に使われている。実は放送局でもクライストロンで電波を発生している。その電波が大きなアンテナから放射され、四方八方に万遍なく伝わる。放送局から遠ざかるにつれ、だんだん電波の強度は弱くなるが、受信機が感じる事が出来る強度を保っている限り、強度が弱くなっても問題はない*3。四方八方に万遍なく伝える事が重要である。

一方加速器では電波の強度が弱くなってしまっては、十分な加速をすることが出来ない。そこで電波を導波管の中に閉じ込めて送る。四方八方に伝えるのではなくクライストロンで発生した電波の全部を加速管に送り込むのだ。電波は広がって薄まる(強度が弱くなる)ことなく加速管に到達し、そこで電子や陽電子を力強く加速するのである。

*1)この電波に乗って電子や陽電子が加速される。ILC通信61号の記事「加速器図鑑『クライストロン』」を参照。
*2)大電力の電波による放電が起きないよう内部は真空にする。
*3)どこの放送局からも遠すぎると電波の強度が弱すぎて満足な視聴が出来なくなる。これが難視聴地域である。